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中編 フー・ファイター


「何なの……。何なのよ……」
 江美が不安げに呟く。
 ベッドの上に座ったまま、それでも気丈に俺を見ている。
 憑き蟲を神経に憑かせているため、江美の身体の支配権は俺が握っていた。支配といっても弱いものだが、今の江美が解くことはまず無理だろう。
 一応、簡易結界も張ってあるので、声が外に漏れることもない。
「何するつもり? 裕樹」
「さっきも言っただろ? 裕樹は死んだって。飛び降り自殺。首の骨がぼっきりへし折れた。死因は頸椎骨折かな? 飛び降り自殺で苦しめずに死ねたのは幸いだろ。死に際にお前への怨念を残していったがな。俺がそれを引き継いでいる」
「死んだって、あんた目の前にいるじゃない!」
 当然の質問に、俺は笑って答えた。
「俺は裕樹じゃない。F・Fだ。エフ・エフ。ファイナル・ファンタジーやファイナル・ファイトじゃないぞ? フー・ファイター。幽霊戦闘機」
 突き出した左手がぐにゃりと溶けて、鈍色の液体と化す。憑き蟲を集中させた一部分を、半液状にする隠し芸。ネタを知っている相手には子供騙しだが。
 それでも、江美を恐怖させるには十分だった。
「――何よ……。あたしを、殺す気?」
「殺しはしないさ。ただ、お前は裕樹をオモチャにした。だから、俺はお前をオモチャにしてしばらく遊ぶ。飽きたら解放してやるよ」
「何ソレ?」
 間の抜けた返事を返す江美。ふと視線を落とす。
 江美の両手がパジャマの中に入り、ぎゅっと自分の胸を掴んだ。そのまま、無造作に揉み始める。柔らかな肉の双丘が手の動きに合わせて形を変えていた。
「なに! なに?」
「俺、男女の営みに興味があって、ね?」
 俺はあっけらかんと微笑んだ。
「男女の営みって、誰がよ……!」
 自分の胸を揉みながら反論というのは滑稽だが、本人は至って真面目なのだろう。
「俺とお前以外に誰がいるんだ? あ、せっかくだから気持ちよくしてやるよ」
「ッッ! あんた、何したの……?」
 江美の頬が赤く染まっている。
「スイッチをポチッと」
 人差し指を弾く俺。憑き蟲で性感スイッチを入れたのだ。本人の意志とは関係なく、身体は出来上がった状態になっている。
「このバケモノ……! あふっ」
 江美の快感は憑いてる蟲から俺にも伝わってくる。第三者的な感覚で、さほど気持ちいいという気はしないが、江美がどう感じているかは手に取るように分かる。
 両手をブラジャーの中に差し入れ、江美は両指で乳首をこね回した。
「んんんんぅ」
 胸から熱い波紋が全身に広まる。背筋だけが凍えるように寒い。
 江美の記憶の中でも最高クラスの快感。
「どうだー。気持ちいいだろ?」
「全ッ然! っうううう!」
 両胸を鷲づかみにして、声を噛み殺した。原木江美としてのプライドがバケモノに屈することを拒んでいるのだ。プライドの使い方は間違ってると思うが。
「素直に気持ちいいって言えばいいのに。なら、これでどうだ?」
 江美の両手が胸から離れる。
「何する気?」
「訊くまでもないだろ」
 右手がズボンの中に差し込まれた。
 湿ったショーツの上から割れ目を撫でる。手入れされた淫毛に包まれた秘部。
「っっあ、うくぐぐ」
 びりびりと身体に走る痺れ。江美は漏れそうな声を強引にねじ伏せた。
「左手はどうしようか?」
「!」
 ひらひらと動く左手に、目を見開く江美。
 その隙を突いて、右手がクリトリスをショーツ越しに摘んだ。
「――ヒぁぁ!」
 不意打ちに、なすすべなく達してしまう。
 性感のスイッチがオフになりかけた所を再びオンに切り替える。まだ、遊びは始まったばかりだ。このまま終わるのは気が引ける。
「卑怯、者!」
 気丈にも睨み返してくる江美。
 俺は両腕を広げて、告げた。
「じゃ、正々堂々と攻めるわ。両手で」
「まって!」
 発言を後悔する暇もない。
 素早く両手でズボンを下ろし、両足をM字開脚させる。
「ああッ、あああ、ひぃぃぃぃ! あっああっ、やめ、やめて……っ!」
 江美は両手をショーツの中に差し入れ、ぐしゃぐしゃに濡れた淫部を両手で嬲った。江美の記憶から自慰を行った情報を拾い出し、気持ちいい方法をひたすら実行する。
 指は確実に感じる場所を刺激していた。
「いい、やめて、いいいいああああ!」
 休む暇もなくイきっぱなし。
 三分ほど強制絶頂を与えてから、両手を止める。ついでに性感もオフにする。
 一時休憩。
 ぐったりした江美に向かって、俺は言いはなった。
「お願いします、ご主人様。私はあなた様の雌奴隷です。と誓ったら許してやる」
「誰が……、そんなこと言うと思う?」
 紅潮した顔に、怒りを浮かべて言い返してくる。
「あそ」
 俺は素っ気なく手を振った。
「なら言うまで頑張る」
「何ッ?」
 両胸を鷲掴みにされた感触に、江美は慌てて背後を見やる。
 蟲を神経に集めて、胸を他人に触られている感触を与えているのだ。感触はあるが、触っている手は見えない。偽物だが、本物と同じ感触。
「早くしないと壊れちゃうぞー」
「あふあぁっ」
 見えない両手が胸をまさぐり、本物の両手が秘部を攻める。
 胸をまさぐる両手は、江美が体験したもので一番激しかったもの。赤畑某という名前らしいが、それは俺の知ったことではない。
「ああッ。ふああッ!」
 身体を痙攣させながら、絶頂を迎える江美。
 見えない両手と勝手に動く自分の右手。常識では考えられない状況に置かれた緊張が、興奮をより高めていた。両足を惜しげもなく開き、涙と涎と愛液を垂れ流して、獣のようによがっている。
「まだ頑張る気か?」
「死んでも、イヤ……ふぁああっ!」
 俺の問いに、悶えながら拒否を示す。
「酷い言われようだな」
 どうやら、江美の中で裕樹のランクは最下級に位置するらしい。憑き蟲としての本能が深い記憶を読むことを拒否している。今は本能に従っておく。
「ならこういうのはどうだ?」
「ッヒィ……」
 今までとは違った快感に、江美は小さな悲鳴を上げた。
 全身を無数の手が撫で回しているような感触。両胸に移動した両手は、胸をゆっくりと撫でるだけ。積極的な攻めは辞めて、じらしへと方向転換する。
「くぅぅぅ。卑怯者……!」
 背中を折り曲げ、江美は訪れない絶頂に耐えていた。
 どれくらいの刺激で絶頂を迎えるのか、俺には分かっている。加えて、今までとは逆に、蟲を使って達することがないようにもしてあった。
「絶ッ対に、ッッッぅぅ。負け、ない」
 凄絶な目付きで俺を睨む。
 涙を流しながら、壊れたような微笑を浮かべていた。
 これは、無駄に根性あるな。あの性格を考えれば、当然とも言えるか……? さすがに数時間続ければ堕ちるだろうが、そこまで時間をかける気はない。
「さて、そろそろこっちも楽しませてもらうかな?」
 俺はゆっくりと立ち上がり、ズボンのチャックを下ろした。

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