Index Top 第4話 青の受難

第8章 言ってみた一言


「あー。効くー……」
 白い紙巻きを咥えたシゥが、背伸びをしている。
 ピアたちの部屋の窓辺で、シゥが作りたての睡草を咥えていた。睡草が無くなってからほぼ一週間ぶりの服用だった。周囲の空気を操り、部屋から外への風を作っている。
 それを眺める、ピアとミゥ、ノア、そして千景。
「睡草を服用したからといって、すぐに回復するわけではないですからね。しばらく、他の薬と並行して体調を安定させていきますー」
 カルテのような紙を眺めながら、ミゥが釘を刺す。こちらで貰った薬も加えて、治療を行うようだった。今回の一件が、踏ん切りとなったのだろう。
 口に咥えている睡草に目を落とし、シゥが呟いた。
「睡草も、少し減らさないといけないか?」
 今は一日十本くらい吸っている。シゥの話によれば、以前は一日二十本くらいは吸って居いたらしい。重度の依存症とは的確な言葉だった。
 ミゥが笑顔で答える。
「すぐに減らすことは無いですよー。でも、長期的には減らしていきたいですね」
 カルテを眺めながら、頷いていた。これからの治療計画を考えているのだろう。いつまでも睡草に頼っていては駄目、ミゥの口にした言葉だった。
 落ち着いた笑みを見せ、ピアがシゥを眺めている。
「何にしろ、シゥが元気になって安心しました」
「心配かけさせてすまなかった」
 一度睡草を口から放し、シゥが頭を下げた。
 それから、静かに立っているノアに顔を向ける。
「ノアも、色々迷惑掛けたな」
 シゥが禁断症状で弱っている間、ノアはずっと付き添っていた。ほとんど不眠不休で。シゥが錯乱状態で暴れたらそれを止めるのは自分の役割と言っていたが、純粋にシゥが心配だったのだろう。
「気にせず」
 表情は変えず、ノアは短く答えた。
「なあ、千景」
「何だ?」
 シゥが見上げてくる。
 いつもと変わらぬ青い瞳。強い意志の光が灯っている。
「お前のこと、ご主人様って呼んでいいか?」
「………」
 唐突に訪れる、沈黙。
 窓の外には、心地よい春の空が広がっていた。大きな積雲がいくつも浮かんでいる。暑くもなく寒くもない、心地よい陽気。ガラス窓から差し込む、日の光。部屋を流れる空気に、ピアやノアの髪の毛が微かに揺れていた。
 ピアとミゥは呆気に取られたようにシゥを見つめ、ノアは無表情のまま。半分思考を止めたまま、千景はシゥを見下ろす。
 シゥは顔を赤くし、睡草を咥えて、顔を伏せた。
「いや、忘れてくれ」
 平静を装い、そう一言呟く。

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11/8/18