Index Top 第3話 浩介の休日 |
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第8章 お手伝い |
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別の服に着替え、一階に下りる。 浩介は脱いだ服を抱えて、風呂場のドアを開けた。 脱衣所に置かれた洗濯機。 蓋を開けて、服を放り込む。 「これで、よし」 額を拭ってから、浩介は廊下に出た。洗濯は明日の朝。 キッチンに入り、流しの前まで歩いていく。コップを掴み、水を入れた。透明な水。季節のせいもあり、生ぬるい。 浩介は一気に水を飲み干した。 「はあぁ」 長々と息を吐き出し、コップを置く。 冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、リビングに移った。 ソファに座ったリリルがポテチを摘みながらテレビを見ている。部屋は涼しいが、冷房はつけていない。魔法で部屋を冷やしているのだ。 浩介はリリルの隣に腰を下ろす。 「おもしろいか?」 「しばらく見ない間に、随分と世の中も変わったな」 バラエティ番組を眺めながら、リリルは呟いた。 ポテチを一枚口に入れてから、 「で、女の自慰は気持ちよかったか?」 「っ!」 浩介は息を止めた。 ジュースを口に含んでいなかったことは幸いである。口に入れていたら、間違いなく吹いていた。ここでベタな反応を見せるつもりはない。 「何で知ってんだよ!」 「本当にやってたのかよ」 リリルが呆れたように見てくる。 浩介は自分の失言を責めつつ、リリルを見つめた。視線で理由を訊く。 「……着替える理由もないのに、着替えてたからな。何か服を脱ぐようなことしたんだろ。水こぼしたんじゃなければ、お前がやりそうなことはひとつだ。それに、匂いで分かる」 すらすらと答えるリリル。 気になって浩介は自分の手を鼻に近づけた。 くんくんと匂いを嗅ぐと、確かに強い匂いがする。人間では感じないだろう。だが、今の狐の身体ならば感じることができた。雌の匂いと言うべきもの。 「で、気持ちよかったか?」 にやにやと笑いながら、リリル。 浩介はオレンジジュースを置き、呻いた。 「宗一郎さんみたいなこと言うな」 「!」 リリルは殴られたように仰け反った。ポテチを持ったまま、ソファに倒れ込む。それほど辛辣なことを言ったつもりはないのだが、予想以上に効いていた。 「大丈夫か?」 「……ああ。何とか」 リリルは起き上がった。えらく疲労している。 浩介は気を取り直して告げた。 「お前、洗濯ってできるか? 洗濯機のスイッチ入れて、干して取り込むだけだけど。体小さいから大変かもしれないけど、無理じゃないよな」 「何だよ……」 「家事を手伝え」 訊き返してくるリリルにはっきりと言う。 袋をひっくり返しポテチの残りカスを口に入れ、リリルはそっぽを向いた。 「めんどくせー」 昼間に聞いた昔話が正しければ、リリルは今までろくに家事をやったことがない。勝手気ままに暮らしていたので、そんなものだろう。 浩介はリリルの頭を押さえて、自分の方を向かせる。 「遣い魔居候の分際で贅沢言うな」 「アタシの魔力がないと動けないんだろ?」 真正面から見返し、リリルは答えた。 浩介はリリルの魔力を取り込まないと、まともに動けない。そういう意味ではリリルに生命線を握られているとも言える。リリルも浩介の命令には逆らえないのだが、露骨に命令されることがないのは理解していた。 だが、浩介は不敵に笑ってみせる。 「……働かないというのなら、考えがある」 「どんな?」 応じるように笑うリリル。 浩介は告げた。 「俺を好きになれ」 「………!」 リリルが固まる。 「妹が兄を慕うように、後輩が先輩を慕うように、メイドが主人を慕うように、幼馴染が毎朝起こしに来るように、ツンデレのデレ状態のように……喩えが偏ってるのはいいとして、何もしたくないなら俺に初恋少女のようなデレデレのベタ惚れになれ」 「ななな、何……かかか、考えてるんだ!」 部屋の隅に縮こまり、本気で怯えるリリル。 浩介は小声で呟く。 「……そんなに嫌かよ」 「当たり前だろ!」 即答した言葉に多少凹みつつ、続けた。 「なら、家事を手伝え。最初は洗濯と掃除だけでいい。できることがあったら、徐々に増やしていく。小遣いは一ヶ月一万円だ。多いような気もするけど、身体が子供なだけで中身は大人だからな」 「分かったよ。チクショウ……」 リリルは渋々と頷いた。 |