Index Top サイハテノマチ 10/10/25 |
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第12話 二日目の夜 |
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風呂で身体を洗い、寝間着に着替えて、脱衣所から出る。 最果ての果てを見に行ったせいか、身体が冷えていた。風呂に長く浸かっていたけど、それでも肌が冷える気がする。この森の空気がひんやりしているのもあるけど。予想以上に寒さって身体に残るもんだと、僕は実感していた。 湿った髪を掻き上げ、テーブルに目を向ける。 「イベリス……?」 テーブルの上に置いてある、小さな木の桶。 イベリスが風呂代わりにしている桶だった。コンロで湧かしたお湯を入れた、小さなお風呂である。僕とイベリス。男女である以前に身体の大きさが違いすぎるため、さすがに一緒に入るわけにもいかない。 横には脱いだ服と着替えが、畳んで置いてあった。 「もう出たの?」 湯船に浸かったまま、イベリスが顔を向けてくる。 僕は瞬きをして、イベリスを見た。 「……。まだ入ってたのかい?」 「うん。身体が冷えるから。今出るところ」 そう答えてから、お湯から身体を持ち上げた。ごく普通に風呂から出るように桶をまたぎ、桶の横に置いたハンカチへと降りる。 当然、何も着ていない裸のまま。 身長二十センチくらいの小さな女の子。濡れた銀色の髪が、褐色の肌に張り付いている。見た目通りに体型は子供のもので、凹凸は少ない。胸も辛うじて膨らんでいるのが分かるくらい。手足も細く、細いというよりも、華奢な印象を受ける。それでも、男とは違う柔らかな丸みを帯びていた。 「なに?」 赤い瞳を僕に向けてくるイベリス。 思わず見入ってしまったけど……。 いまだに硬直している僕をよそに、イベリスは置いてあった小さなタオルで髪の毛や身体を拭いている。濡れた髪から水気を取り、身体を丁寧に撫でていた。 足の爪先まで身体を拭き終わり、小さく息をつく。 「珍しいの?」 視線を向けられ、僕は目を逸らした。 「いや……、あんまり恥ずかしがったりしてないから」 思った事を口にする。 一糸まとわぬまま、布で身体を隠す事もしない。でも、イベリスはそれを恥ずかしがっている様子もなかった。 イベリスはタオルを持ったまま自分の身体を眺め、 「恥ずかしがることでもないと思う」 「そうかな?」 僕は首を傾げた。 服を着ていないというのに、恥ずかしがる気配も無いイベリス。なんだか、気恥ずかしがっている僕が馬鹿らしくなるような態度だった。 「ん?」 ふと目を止める。 イベリスの背中から生えた金色の羽。 普段は上着に隠れているため、根元がどうなっているかは知らない。そもそも知ろうととも考えなかった。しかし、今は服を着ていないため、付け根がはっきりと見える。 半透明の薄紙のような羽。根元に向かうに従い、細く薄くなっている。羽が生える根元は羽が消えていた。つまり、皮膚から少しだけ離れた所から、実体化している。 「羽が、珍しいの?」 「うん。妖精の羽って初めてみるし」 僕はテーブルの横へと歩いていく。 「ちょっと触ってみてもいいかな?」 その言葉に、イベリスは少し考えるような仕草を見せた。 「構わないけど、引っ張ったりはしないで」 「分かった」 頷いて、僕は右手を伸ばした。 イベリスの背中から伸びる金色の羽を指でそっと摘む。 「?」 それは、不思議な感触。厚さは無いと思えるほどに薄い。表面は滑らかで、癖になるような触り心地だった。指を動かすと、何とも言えない痺れが腕を駈け上がっていく。 これは、癖になりそうかも……。 僕はすぐに手を放した。 「ありがと」 「そう」 無表情のままイベリスは頷いてから、着替えを持ち上げた。 黒いショーツを手に取り、それに右足を通す。体格は子供っぽいわりに、大人っぽい下着だった。右足に続いて左足を通し、それを腰まで持ち上げる。 それから黒い袖無しのシャツを手に取った。下着のキャミソールに似ているかもしれない。両手を通してから、頭を通し、生地を身体に落とす。背中に入った銀色の髪の毛を右手で払うように外に出した。 最後に寝間着の黒いワンピースを掴み、右手と左手を順番に通してから、身体を通す。背中の四本の羽は、まるで存在しないように布地を透過していた。同じように襟から髪の毛を外に出して、首を左右に振る。 イベリスは普段着を両手で抱えてから、軽くテーブルを蹴った。四枚の羽が広がり、微かな光とともに生み出される浮力。小さな身体が空中へと浮き上がった。 「片付けお願い」 と、木の桶と濡れた小さなタオルを示す。 「了解、っと」 これらを用意して片付けるのは、僕の仕事だった。イベリスの小さな身体では、桶を動かしたりお湯を入れたりするのは大変である。 僕は小さな桶とタオルを持ち上げ、風呂場に向かった。 イベリスが無言で後を付いてくる。 |