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第10話 朝の散歩


 朝食前の散歩。特に行き先もなく、ふらふらと歩く。
「誰もいないね」
 カイの傍らを飛びながら、ミドリが呟いた。
 どこへとなく泳がせたカイの視線を追うように、時々視線の先へと飛んでいく。興味深そうに眺めていたものを観察してから戻ってくる。
 欠伸をしながら、カイは言ってみた。
「朝だからな。七時前に散歩してる物好きはあんまりいないだろ?」
「カイって物好きなんだ」
 あっさりと言い返してくる。
 ミドリの眼前に指を突きつけ、半眼で睨んでみた。
「誰のせいだと思ってるんだ?」
「えと、わたし?」
「そうだよ」
 頷いてから、表情を緩める。カイは周りを眺めた。この近くに家はなく、周囲には畑が広がっている。朝七時前に仕事をしている人間はいない。
「でも、朝の散歩っていうのも意外といいものだな」
 背伸びをしながら、頷く。
 カイは道ばたに咲いた花に目を向けた。黄色い花で名前は分からない。
 ミドリが視線をたどるように、花の元へと飛んでいく。黄色い花を興味深げに眺めながら、指で突いたりしていた。
「花を眺める妖精……絵になるな」
 カイはポケットから手帳を取り出した。
 鉛筆を走らせて、素早くその様子を描き留める。輪郭だけであるが、これで充分だった。自分の記憶力と合わせれば、この場面をキャンバスの上に再現出来る。
 手帳をポケットにしまう。
「おい、行くぞ」
「はい」
 ミドリが戻ってくるのを待ってから、カイは歩き出した。

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