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第17話 結晶石


 薄い水色の結晶。
 結晶石。周囲の岩のような立方体を組み合わせたような結晶。塩の結晶に似ている。結晶ひとつは数センチから数十センチまで。岩から生えるように、無数の結晶が人の背丈ほどの小山を作っている。
「きれいです……」
 蒼い瞳をきらきらさせながら、アルニが肩から離れた。
 灯りに惹かれる羽虫のように、結晶石に近づいていく。
「危ないぞ」
 ロアは左手を伸ばして、アルニを捕まえた。後ろから羽と両手を握り締める。妖精は羽を掴まれると飛んでいることが出来なくなり、極端に自由度が減ってしまうのだ。
 手前に引き戻し、手を放す。
「何するんですか?」
 不服そうに呟くアルニに、ロアは嘆息を返した。さきほどから何度も言っていたのだが、やはり忘れたらしい。結晶石の美しさに魅入られたとも言える。
 ロアはもう一度告げた。
「言っただろ? 危ないって。結晶石はエネルギーの塊だ。生き物が素手で触れば火傷みたいな症状を起こす。しかも、治りは普通の火傷よりも悪い。純粋魔力生命体の妖精が触ったら、腕なくすぞ」
「分かりました」
 アルニは素直に引き下がった。
 傍らに浮かんだまま、作業を眺める。
 ロアはウエストポーチから革の手袋と袋を取り出した。防御の魔術の組まれた結晶石採取用の道具。このような道具を使わないと、結晶石を採ることはできない。素手で触れないわけではないが、魔力火傷を起こす。
「五百グラムか」
 ロアは手袋を嵌め、結晶石を掴んだ。軽く捻るとぽきりと折れる。強度自体はそれほどでもない。ぽきぽきと手際よく結晶石を採り、袋へと詰めていく。
「ロアさん?」
「何だ?」
「採りすぎじゃないですか? 採っていいの五百グラムまでですよね?」
 ロアの手を眺めながら、気まずげに言ってくる。
「結晶石って軽いんだよ。見た目は宝石だけど、純粋な物質じゃないから比重は0.1くらいだ。採ってみると分かるけど、硬い綿だよな」
 苦笑しつつ、ロアは袋の口を縛った。
 意外そうな顔を見せるアルニに、袋を差し出す。一見すると袋一杯に入っていて、数キロくらいの重さがあるように見える。
 怖々と袋を掴むアルニ。それを見てから、手を離す。
「あれ?」
 下に引っ張られることを覚悟して羽に力を入れていたのだろう。しかし、袋の軽さに拍子抜けする。袋を持ったまま、ロアを見つめた。
「本当に軽いです」
「だろ?」
 袋を受け取り、ロアはそれを腰のベルトに括り付けた。
 手袋をポーチにしまう。これで仕事は終わりだった。
「さて、帰るか」

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