Index Top 第5章 戦争が始まる

第2節 求めるもの


「それで、何が目的だ?」
 レイは呻いた。
「さしあたっては……」
 スティルが右手を上げる。
「リミッター解除!」
 その言葉とともに放たれた貫き手が、バレイズの心臓を貫いた。飛び散った鮮血がスティルの腕を赤く染める。即死だろう。
 スティルが右腕を引くと、バレイズは糸が切れたように地面に倒れた。流れ出した血が、コンクリートの地面に広がっていく。赤黒い血。
「社長の座に就くことだ」
 実の親を殺したというのに、スティルは口調ひとつ変えない。
「僕の目的を果たすには、この会社の権力と財力、戦力を利用しなければならない。正直言って、現社長である父さんは邪魔だったんだ」
 言いながらレイたちの方へと歩いてくる。が。
 ドガァッ!
 爆音の寸前に、スティルはその場を跳び退いていた。
 スティルの立っていた場所に、直径五メートルほどの大穴が開いている。それは、大口径の弾丸によるものだった。視線を移すと、トレーラーのコンテナに穴が開いている。
 金属が組み合わさるような重い音が響き、コンテナの後部扉が突き破られた。
「何だ?」
 飛び出してきたのは、小型の戦車だった。漆黒の車体。その上部に、口径五十ミリの砲身がふたつついている。その砲口は、オメガたちとスティルに向けられていた。
 ややしてから、一台のジープがやって来る。
「これは……何だか、ややこしい事態になってるわね」
 運転席に乗ったミストが、周りを見ながら呟いた。
「ミスト……。ということは、これが噂のジャガーノートか」
 ミストと戦車を見つめ、スティルが何やら興味深げに頷いている。
 この戦車――ジャガーノートが、ミストが言っていた、オメガ汎用機の代わりになるとまで考えられた兵器なのだろう。
 スティルがレイに視線を戻した。
「話の続きだ。僕の目的は、世界征服」
 冗談のようなことを、こともなげに言ってのける。しかし、スティルの表情は冗談を言っているものではなかった。本気で言っているらしい。
「父さんは、金や人脈を使って世界政治を裏から掌握しようとしてたけど、僕はそういうやり方が好きじゃない。面倒事は嫌いなんだ。僕は強大な力を以て、世界を表から直接支配する。これこそ、男のロマンだと思わないかい?」
 シリックは銃口を下ろし、クキィは光刃を消し、スティルを見つめる。とんでもないことを涼しげに語るその姿は、言いようのない恐怖を感じさせた。
「機械と融合したこの身体は、老いることもない。傷ついても、いくらでも修復できる。僕はいわば、不老不死。不死身。無敵。まさしく世界の支配者に相応しい」
 スティルは恍惚とした表情で、言葉を紡いでいく。
「その手始めに、鬱陶しいレジスタンスを潰させてもらう。彼らの主戦力のレイとジャガーノートはここにあるんだ。レイは僕が倒す。オメガが動けば、人間だけで構成されたレジスタンスを潰すのは難しくない」
 と、オメガたちを見やり、
「行け」
「起動率三五〇パーセント!」
 その命令に、オメガ六体が動きを見せ――
 走り出したのは、三体だけだった。スティルを含めた四体がジャガーノートの放ったミサイルに吹き飛ばされている。油断していたのだろう。
 加えて、レイも何もしなかったわけではない。
「十三剣技・十連牙!」
 閃く白刃が、胸に『2』と記された金髪の女の姿をしたオメガの右腕を斬り落とし、胸に『1』と記された黒衣の大男の胴を斬った。胸に『3』と記された黒髪の男がテンペストの刃を受け止める。前腕から飛び出した薄紫色のビームブレードによって。
 テンペストでオメガを押し戻しながら、レイは言った。
「行け! ミスト」
「クキィ、シリック。乗って!」
「だけど……!」
 悔しげに、シリックが絶命したバレイズを見つめる。
 だが、クキィはシリックの手を取って、ジープに飛び乗っていた。ジープが走り出し、元来た道を走っていく。それを追うように、ジャガーノートも走り出した。
 左足を突き出し、レイは対峙していたオメガを蹴り飛ばす。
「スティル。出てこい」
 呼び声に答えて、砂埃の中からスティルが姿を現した。一緒に吹き飛ばされたオメガ三体も、ともに現れる。幸い、ミストたちを追うことはなかった。
「お前は俺を倒すと言ったが、無理だ。うぬぼれるな」
 テンペストの切先で、スティルとオメガ四体を順番に示す。テンペストを受け止めた黒髪の男、三号機。伸ばした指の先から八十センチほどのビームソードを出している金髪の女、四号機。指先がレーザー発射機になった赤髪の女、五号機。腰に二本の剣を差した銀髪の男、六号機。
「何でだ? 性能は君より僕の方が上だよ」
「技術と錬度の差だ!」
 言った時には、レイは飛び出していた。オメガの攻撃をかいくぐり、スティルとの間合いを詰める。その速度は、人間の目には捉えられないだろう。

Back Top Next

13/6/2