Index Top 第4章 明かされた事実

第8章 突き進め!



 フロントガラスに機関銃の銃弾が当たり、細い亀裂が走る。しかし、防弾加工のなされたガラスを突き破ることはできなかった。
 クキィの運転する特大トレーラーは、街の中央通りを北に向かって走っている。
 その先には、車や鉄骨、動かない戦闘用ロボットなどが道を遮るように積まれていた。バリケードだろう。その左右には、サイバースーツと自動小銃を持った、警備官が数人立っている。銃口を自分たちに向けてくる。
 フロントガラスに、十個ほどのの銃痕ができた。ガラスは割れなかったが、視界が白く濁って、前が見えにくくなる。
 運転席のクキィが、バリケードを見つめた。
「シリック。撃って!」
「おう!」
 助手席に座ったシリックは、その場でノートゥングを構える。いちいち窓を開けている暇はない。引き金を引くと――
 笛の音のような細い音。
 反動はない。フロントガラスが砕け、正面のバリケードにエネルギー弾が命中する。その威力は想像以上だった。鉄骨や車、ロボットの装甲を易々と貫き、内部で派手に爆発を起こす。金属やガラスの破片が散らばった。
 周囲の警備官が左右に逃げる。
「シリック。伏せて!」
 言われるがままに、シリックは目を閉じて、身をかがめた。トレーラーが、バリケードに突っ込む。全身を揺さぶる衝撃。音は聞こえない。車体が、跳ねる。
 しかし、トレーラーが止まることはなかった。
 最後のバリケードを突き破り、デウス・シティを後にする。
 目の前にあるのは、まっすぐ続く一本道。
 その先に、白い巨大な建物が見えた。
 デウス社。
 シリックは額に巻いたバンダナを巻き直す。
「つに、この時が来た」
 暗い悦びが胸を閉めていた。自分たちから、家族を奪っていった相手に復讐できる。ふつふつと胸の中で、憎しみの炎が燃え上がっていた。
「シリック」
 不意に、クキィが呟いた。
「何だよ、姉ちゃん」
 見やると、クキィは感情のない虚ろな瞳で正面を見つめている。それは、今まで見たこともない表情だった。唇だけを動かす。
「死ぬ、覚悟はできてる……? 相手は、デウス社。どんな武器を持ってるか分からない。帰ってこられる保障はない」
 言われて、シリックは呼吸を止めた。相手は、世界最大の企業。あらゆる最新兵器を有している。対して、自分たちの武器は一組しかない。人数はたった二人。
 だが、自分たちに残っているものはない。
 あるのは、復讐の意思だけ。
「ああ……」
 シリックは頷いた。
 そうしているうちに、デウス社の正門を突っ切る。
 すると――
 車の前に、大柄な人影が飛び出した。両拳を腰だめに構え。
 クキィはハンドルを切りながら叫ぶ。
「逃げて!」
 シリックは言われるままに、助手席から外へと飛び出していた。クキィも扉を開けて、外へと飛び出している。タイヤのすべる摩擦音と、立て続けに響く粉砕音。
 立ち上がり見ると、トレーラは横を向いて停まっていた。その運転席は、ぐしゃぐしゃに潰されている。逃げていなければ、運転席の道連れになっていただろう。
「何なんだ……!」
「オメガ……汎用機!」
 いつの間にか、近くに来ていたクキィが呟いた。左手に青い光刃コルブランドを、右手に赤い光刃キャリバーンを、二刀流に構えている。
 そこにいたのは、身長二メートルほどもある、アンドロイドだった。外見は、黒い服とズボンという格好の、がっしりした男である。その両拳は金属装甲に覆われていた。服の右胸には『1』と記されている。
 見ているうちに、別のアンドロイドが現れた。男が二人、女が三人。その服には、2から6までの数字が記されている。外見は人間と変わらない。
 続いて現れたのは、二人の男だった。ラインと瓜二つの初老の男と、その息子らしき若い男。初老の男は、社長のバレイズだろう。若い男の名前は分からない。
「お前たちは、誰だ?」
 バレイズが問いかけてくる。警戒はしていないようだった。警戒することはない。何かすれば、オメガ汎用機が動くだろう。
 呪詛のような口調で、シリックは唸った。
「俺は、シリック・ホワイトフォックだ! お前らを殺しに来た」
 バレイズは反応を見せない。神経が図太いのか、無神経なのか、それとも恨みを買うのには慣れているのか。どうということもない眼差しを向けてくる。
「ホワイトフォック……どこかで聞いた名だな」
「伝説の剣士レオン・シルバーの相棒、サザールの子孫よ。あなたたちは、レオン・シルバーの記憶の入ったデータボックスと、オーバーテクノロジーの秘められたコアを狙ってわたしたちの家を襲い、お父さんとお母さんを殺した」
 読み上げるように、クキィが告げる。
「復讐か」
「そうだ」
 言って、シリックは引き金を引こうとし――
「!」
 それに反応し、最初に攻撃してきたオメガが動いた。信じられない速度で、向かってくる。目で追っても、残像しか捉えられない。攻撃するにしろ、防御するにしろ、神経が追いつかない。動けない。
「シリック! 逃げて」
(逃げられるわけないじゃないか!)
 クキィに叫びに、心の中で反論した、その刹那。
 目の前に砂色の影が飛び込んでくる。
「十三剣技・一烈風!」
 銀光が閃き、オメガが十メートルほど飛び退いた。
「あんた……」
「剣士たるもの、死に急ぐ者を放っておいてはならない――!」
 砂色の人影、レイは呟く。

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13/5/19