Index Top 第1章 砂色の十字剣士 |
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第4節 最強の武器? |
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「シリックにクキィか」 酒場の一番奥にあるテーブルで。 レイは、向かい側に座っている少年と少女を見つめた。シリックにクキィ。全然似ていないが姉弟らしい。その名前を忘れないように、頭に書き込んでおく。テーブルの上にはグラスがひとつ。先の騒ぎのせいで、客は残らず逃げ出してしまった。店の主人もどこかに行ってしまった。酒場は貸し切り状態である。 「ノートゥングなんて持って、何があったんだ?」 「それより、あんたこそ何者なんだ? オレの銃を一発で見抜いて……。さっきも、銃を持った奴をあんな――。それに、賞金首ってどういうことなんだ?」 興奮を抑えきれないといった口調で、シリックが言ってきた。その瞳には、この年齢の少年特有の熱い意思が伺える。だが、それとは微妙に異なる意思も見えた。 「そうだな。俺は――」 言いかけて、レイは口ごもった。自分の素性を考えてみる。他人に言えることと言えないことでは、言えないことの方が多いだろう。 半秒ほど考えてから、 「端的に言ってこれだ」 レイは後ろの壁を指差した。 壁に立てかけられたテンペストの隣に、古びた四角い紙が二列並んでいる。枚数は十四枚。誰の目にも入るが、誰も見ることはない。その一番左下の紙。 「特一級国際指名手配犯レイ・サンドオーカー……本名不明、ですか? どこかで聞いたことがあるような気がしますけど――」 クキィが文字を読み上げる。芯の抜けたような声だが、見た目通りに芯が抜けているわけではない。むしろ、芯は鋼のように強いだろう。そう見えないだけだ。 何とはなしに姉弟を観察してから、レイは付け加える。 「通称クルスフェンサー……十字剣士。誰が言い始めたかは知らない。賞金首リストにも赤字で乗っている。賞金額は三十億クレジット。生死は問わない。無論、史上最高金額だ。おかげで、賞金目当て名声目当てで俺の首を狙う賞金稼ぎが後を絶たない」 「三十億……」 金額を聞いて、シリックは目眩を覚えたように額を押さえた。三十億クレジットの現金の山を思い浮かべたのだろう。三十億もあれば、小さな街がまるごと作れる。 「一体、何をやったんです? 三十億クレジットなんて賞金はどう考えてもおかしいですよ。指名手配なのに罪状も書いてないですし。それに、レイさんは悪い人には見えません」 真剣な面持ちで言ってくるクキィに、レイは苦笑を返した。 「実を言うと、俺はこれといって何もしていない」 「何もしてないのに、何で指名手配されて賞金まで懸けられるんです?」 大概嘘だと言われるのだが、クキィは素直に信じたようである。物事の真偽を見る目があるのか、疑うことを知らないのか、それは微妙だった。 「心当たりはあるが、詳しいことは話せない。俺の面倒事に、君たちを巻き込むのは気が引けるからな。平たく言えば、世の中色々あるんだよ」 「大変ですね」 同情するように、クキィが言ってくる。 「まあな」 言って、レイは指を右から左へ動かした。自己紹介は終わりという合図である。自分のことをむやみに話して、二人を自分の抱えることに巻き込むわけにはいかない。 二人を見やり、レイは尋ねた。 「で、君たちは、ノートゥングなんて持って、何が――」 と言いかけてから。 気になって、訊き直す。 「その前に、ノートゥングがどんな銃なのか、知っているのか?」 「ああ」 頷いて、シリックはノートゥングをテーブルに載せた。 形状は自動小銃に似ている。だが、一般の自動小銃にはないいくつかの部品がついていた。それが外見を重厚なものへと見せている。最も特徴的なのは、一メートルもある銃身だった。断面は円形ではなく、長方形である。幅二十ミリ、高さ三十ミリ。銃口は標準規格の銃と変わらない。丸い銃口が、先端上部に開いていた。 「ちょっと昔の代物だけど、通常弾を鉄板も貫く徹甲弾に変える最強の銃だ――って親父が言ってた。どんな原理なのかまでは知らない」 「正確には――火薬の炸裂で射出された弾丸に、強力な電磁力で猛烈な加速と回転を加える、スーパーレールガンだ。最強の部類には属するが、現在じゃそれを超える銃は何種類も存在する……。それに、ノートゥングが作られたのは……『ちょっと昔』どころじゃなくて、百六十年も昔だぞ……。何と言うか……」 言葉を選びながら、レイは呻く。 「君……時代の感覚がずれてないか? 百年くらい」 |
12/9/17 |