Index Top 序章

第1節 最強の機械


 メインプログラム・異常なし     制御プログラム・異常なし
 人格プログラム・異常なし      記憶学習プログラム・異常なし
 戦闘プログラム・異常なし      自己修復プログラム・異常なし
 神経回路・異常なし         金属系人工筋肉・異常なし
 骨格各部・異常なし         関節各部・異常なし
 感覚器官・異常なし         動力炉・異常なし
 エネルギー伝達機構・異常なし    物質変換機構・異常なし
 空間圧縮機構・異常なし       質量中和機構・異常なし
 ナノマシン機構・異常なし      ナノマシン統合機構・異常なし
 付属CPU・異常なし        付属メモリ・異常なし
 コアブレイン・異常なし
 エネルギー充填完了
「RUN」



「以上が、オメガ試作機の戦闘能力よ」
 ディスプレイの映像が消え、部屋の明かりがつく。
 白い会議室。壁も床も天井も白い。部屋の中央には長方形の机が置かれ、前面の壁には巨大なディスプレイが設置されている。部屋の四隅には、背の高さの違う観葉植物が置かれているが、無機質な雰囲気を退けるには至らない。机にかけている人間は十二人。年齢は三十代から六十歳まで、半分が背広姿で、残りの半分が白衣を着ている。
 ディスプレイの横には、二十歳ほどの丸い縁なし眼鏡をかけた女が立っている。
 数秒の沈黙を挟んで、一人が呟いた。
「凄い……というか、信じられないな。全機倒すに、何分かかった……?」
「二十体を機能停止させるのに、たった六十三秒よ。一体を撃破するのにかかった時間は、平均三・一五秒。損傷は一切なし」
 眼鏡の女――ミストは答えた。
 白髪の男が別の問いを発する。
「汎用型とは言え、我が社最強の戦闘ロボット・イプシロン二十体をたった一分で……。使用した武器は、重火器ではなく、ただの剣――何なんだ、あの剣は?」
 ミストはポインターで、ディスプレイを示した。
 それに合わせるように、ディスプレイに画像が映る。さきほどの戦闘で、オメガ試作機が使っていた剣。一見すると、ただの長い剣だが。
「この剣は、ただの剣じゃない。材質は現在開発された金属の中で、最も硬度と粘りに優れたものよ。イプシロンの装甲を切断する能力は元々持っているわ。それに、彼が使う場合は、彼の機能と連動して切断力を飛躍的に高める機構が働くから、実質的にこの剣で斬れないものはない」
 おお、と全員の口から感嘆の声がこぼれる。
 剣のことを尋ねた男が、再び問いかけてきた。
「武器は分かったが、試作機の性能はどうなんだ? イプシロン二十体をたった一体で撃破するなんて、どんな機能が使われている?」
 ミストは再びディスプレイを示す。画像が別のものに変わった。オメガ試作機の内部構造を映した図。それに、いくつもの説明がつけられている。だが、あまりの情報量に、一目で読むことはできない。
「彼の身体には、最新機能がいくつも使われているわ。それだけでも、汎用型の戦闘機械を超える戦闘能力を発揮できる。それだけじゃない。身体の随所に、ロストテクノロジーが使われているのよ」
「AATか」
 白衣を着た金髪の男が呟く。
「しかし、アンドロイドとはいえ、機械にあんな動きができるものなのか? 機関砲の弾幕をかいくぐり、イプシオンを倒すなんて。まるで武術の達人のような――」
 オメガ試作機は機械とは思えないしなやかな動きで弾丸を躱し、イプシロンを斬り裂いた。まるで人間のような動きである。弾丸は一発も当たっていない。掠ってもいない。
 ミストはやや強い調子で言った。
「それが、オメガの全機能の中心。彼には、それを可能にする技術があるの。そこいらに転がってる機械とは、質が違うのよ。彼は自分の意思を持ってる」
「人工知能のことか?」
 金髪の男が呟くと、それに続いて隣の眼鏡の男が呟く。
「人工知能なら、イプシロンも積んでいるが……?」
 その意見に、ミストはかぶりを振った。
「彼に使われたのは、ただの人工知能じゃないわ。人間に極めて近い思考と感情――つまり心と、生身の人間が持っていた技術と経験を持っている。なおかつ、機械としての身体能力と計算能力を加えた最高のアンドロイドよ」
「伊達に、五百億も使ったわけではないということか……」
「試作機の話は、この辺りにしてくれ」
 一番奥の席にいる男が、言った。
「我が社の目標は、試作機を超える戦闘能力を持つアンドロイドを量産することだ」

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12/8/19