Index Top 目が覚めたらキツネ

第2節 失ったもの


 空刹を見ると、あっさりと答える。
「修理しました。ゼンマイを巻いて下さい。彼女たちは君のものです」
 ちらりと視線を送ると、結奈は肩をすくめてみせた。
「あんたに手柄は上げるわ。今回の一件を試験論文にさせてもらうから」
「ありがとう」
 礼を言ってから、慎一はカルミアのゼンマイを巻いた。五回しっかりと。傍らにそっと置いてから、イベリスのゼンマイも同じようにしっかりと巻く。
「約束です。君の意思を汲み折半にする、と。彼女たちに組み込まれていた封術・法衣は僕が抜き取りました。僕が欲しかったのは最初から封術でしたからね」
 心中を読んだように空刹が説明する。
 カルミアの羽がぴんと伸びた。続けてイベリスの羽も伸びる。
 二人はほぼ同じ動きで右手と左手を持ち上げ、背伸びするように両手を伸ばした。両手を下ろしてから、両目を開く。澄んだ蒼い瞳と、醒めた金色の瞳。
 寝ぼけたように一度周囲を見回す。慎一、結奈、空刹、イベリスと順番に見つめてから、カルミアは首を傾げた。
「何でわたし、こんなところに? えっとシンイチさんとクウセツさんが戦って、わたしとイベリスでユイナさんに封術を使って……」
「終わったみたいね、全部」
 イベリスは一人頷いている。状況は理解したようだった。
 カルミアが尋ねる。
「終わったって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。全部片付いた。もう誰かに狙われることもないし、面倒くさいことをすることもない。これからはずっと一緒に居られる」
 カルミアの肩を指でとんとんと叩き、慎一は笑う。
 イベリスは羽を動かして飛び上がり、空刹の前まで移動した。自分の胸に手を当て、
「元マスター。私たちの封術はどうしたの? なくなっているようだけど」
「僕が抜き取りました。封術から漏れるエネルギーの代わりとなる動力源は組み込みましたが、もう封術は使えません。これからは動いて喋って考えるただの珍しい人形として生きていくことになります。魔術は使えますけどね」
「そう」
 返事は素っ気ない。
 空刹は一礼すると、ドアの方へと歩いていった。
「では、後始末があるので僕は帰ります。またどこかで会いましょう」
 快活に笑ってから部屋の外へと出る。足音が遠ざかることもなく、気配が消える。空間転移を行っていても驚きはしない。
 結奈は食べかけだったリンゴを芯だけにして、椅子から立ち上がった。
「三人のすい〜とたいむを邪魔しちゃ悪いからね。あたしもおいとまするわ。んじゃ、そういうことで、また大学で会いましょう」
 ぱたぱたと手を振り、病室を出て行く。こちらは普通に遠ざかる足音が聞こえた。迷うこともなく階段へと向かい、足音が聞こえなくなる。
 空刹を見送ってから、カルミアはちょっと不安げに訊いてきた。
「シンイチさん。もうわたしたち封術の器じゃないですけど、いいですか?」
「二人は二人だ。気にすることでもない」
 慎一は口の端を上げる。
 カルミアはぱっと笑顔を見せた。
「ありがとうございます!」
「ところで、マスター」
 マイペースにイベリス。お腹を右手で撫でながら、
「お腹すいた」
「え?」
「わたしも何だか凄くお腹すいています」
 空腹を訴える二人。身体が直った直後でエネルギーが不足しているのだろう。動き出したばかりのカルミアが何でも食べていたのを思い出す。
 慎一はメロンを手に取り、ベッドテーブルに乗せた。
 カルミアとイベリスは皿の手前に降りてから、スプーンを手に取る。宗次郎はあらかじめ話を聞いていて三人分のメロンを用意したのかもしれない。
 スプーンを手に取ってから二人に声を掛ける。
「じゃ、おやつにするか」
「はい!」
「いただきます」
 元気なカルミアの声と、無感情なイベリスの声を聞きながら。
 慎一は果肉にスプーンを入れた。

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