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第3節 魔獣召喚


 数は十二人……。
 まだ使っていない部下の数を数えて、チェインはこっそりとため息をついた。残りの部下は、重傷を負わされ、使い物にならない。ここに呼びたかったのだが、いても役には立たないだろう。
「チェイン様……。一体、これから何をするつもりですか?」
 部屋を見回しながら、部下の一人が訊いてくる。
 二十メートル四方の部屋。窓は暗幕で覆われており、室内に日光は入ってこない。あちこちに置かれた蝋燭が、部屋を照らしている。コンクリートの床には、円や四角、三角、その他様々な図形が複雑に組み合わされた模様が削り込まれていた。
 チェインは部下たちを見回し、
「明日香を守る連中を殺すために、魔獣を召喚するわ」
「魔獣、ですか?」
 また誰かが訊いてくる。その問いは予想済みだった。ここにいる下級妖魔が、魔獣を知っているはずもない。妖魔の中でも魔獣のことを知っている者は多くはないのである。
 チェインは薄い笑みを浮かべた。
「そう、魔獣よ。強大な力を持った怪物……! これを召喚すれば、あの鬱陶しい寒月なんか目じゃないわ」
「おおお――」
 どよめきのような歓声が聞こえる。
 その反応に満足しながら、チェインは続けた。
「けど、わたしだけの力じゃ魔獣の召喚はできない。みんな、力を貸してくれない?」
 と、部下を見やる。
 部下たちは、お互いに顔を見合わせて、
「はい!」
「ありがとう」
 微笑んで、チェインは右手をかざした。
 部下たちが、訝しげにそれを見つめ――
 自分たちに何が起こったのか、理解できなかっただろう。
 右腕の肘から先が数本の鎖と化して、次々と部下を貫いていく。鎖は正確に急所を貫いていた。絶命した部下たちの力を吸い取っていく。一人一人は大した量ではないが、十二人も集まれば、充分な力となった。欲を出せば、部下全員でも足りないが。
 床に崩れた部下たちは、塵と化し、空気に溶けるように消滅する。
 あとに残ったのは自分だけ。
 右手を元に戻し、チェインは床の陣へと向き直った。
「魔獣の召喚……ね」
 左手には、古い本が握られている。それは、魔獣を召喚するための手段が書かれたものだ。今まで、何人もの人間、妖魔が魔獣を召喚しようとして、成功し、失敗もした。
 床の紋様が淡く輝きだす。
「魔獣の召喚には、生贄が必要――」
 チェインは右腕をかざした。
 魔獣を召喚するためには、生物の命を使う。人間ならば、数十人が生贄となって命を落とすこととなる。上級妖魔ならば死ぬことはないにしろ、命の大半を失うことに変わりはない。寿命が極端に縮むのだ。
 だが、魔獣を召喚し、寒月たちを殺し、明日香の力を奪えば、それを補うことができる。おつりがくるほどだ。失敗すれば、命はない。
 問題は――
「時間、ね……!」
 鬼気迫る表情で、チェインは呟いた。

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