Index Top 第5話 興の無いクリスマス

第4章 意のままに


 初馬は一ノ葉の首筋に優しく噛み付く。
「ふあ……」
 喉から漏れる甘い吐息。首筋を甘噛みしながら、肌の表面に舌を這わせた。狐耳と尻尾を優しく弄る手の動きはそのまま。もはや抵抗らしい抵抗はできていない。
 狐耳や尻尾を撫でながら、口付けや首筋の甘噛みを続けている。そろそろ三十分ほど経つだろう。一ノ葉の思考を溶かすには十分な時間だった。
「あっ、は……」
 だらしなく舌を出し、頬を赤くしたまま荒い呼吸を繰り返している。身体は熱く火照り、ろくに力も入らず、目の焦点も定まっていない。
 首筋から口を放し、初馬はそっと一ノ葉の頬を撫でた。
「どうだ、気分は? ずいぶん暖まったと思うけど」
「やかまひぃ……。この下衆がぁ」
 目元に涙を滲ませながら、一ノ葉が言い返してくる。呂律はまともに回っていないが、まだ悪態をつく気力は残っているらしい。布団の中は暑いほどに熱が溜まっていた。
 初馬は人差し指を伸ばし、白衣の上から胸の辺りをくすぐる。
「っ、ヒッ」
 力無く歯を噛み締めたまま、一ノ葉は擦れた声を吐き出した。意志とは別に、ぴくぴくと動く狐耳と尻尾。目元から一筋の涙がこぼれ落ちる。
「相変わらず感度いいな、お前は――。飽きるまでこうしててもいいんだけど、それじゃお前の方が持たないだろうし。俺もこのままなのは気が進まない」
 初馬は狐耳と尻尾から手を放した。手を放したからといって疼きが収まるわけではななく、不規則な動きを繰り返している。このまま壊れるまで弄っているのも一興だろうが、それもマズいだろう。
 汗が出るほどに暑くなった布団をどかし、初馬は起き上がった。部屋の冷気が肌をなでるが、寒いとは思わない。ベッドの横の壁に背を預けながら、両足を伸ばす。
 一ノ葉の身体を動かし、寝た状態から起こす。長い狐色の髪の毛が微かな音とともに背中に流れた。両足を開いてから、太股の上に正面を向いて座らせる。本人が脱力していても、式操りの術を用いて普段通りに身体を動かすことができるのだ。
 目の前で不安げに動いている狐耳。
「これからどうしてほしい?」
 左手で肩を抱えたまま、一ノ葉を見下ろす。
 両足を投げ出した無防備な姿勢。自分で動こうという意志は残っていないようだった。虚ろな眼差しをどこへとなく向けたまま、上がった呼吸を繰り返している。
 薄暗い部屋。テレビから流れる番組。冷たい空気も、火照った身体に心地よい。
「希望がないなら、俺のやりたいようにするけど」
 言うが早いか、初馬は一ノ葉の身体を動かしていた。横に落ちていた右手が持ち上がり、自らの胸元へと伸びる。本人の意志とは関係無く、五指がわきわきと動いていた。
「っ……」
 手から逃れるように一ノ葉は身悶えするが、どうにもならない。襟元から見える緋色の掛襟。その下に見える白い短襦袢。襦袢の下へと一ノ葉の右手が滑り込む。
「やめ……」
 擦れた声音で呟くが、手は止まらない。
 初馬の意志により、右手が襟の奥へと差し入れられた。そのまま、手の平で胸全体を包むように丁寧に撫でる。柔らかな膨らみと、手のひらに触れる小さな突起。
「あ、ぁ……」
 熱い痺れが胸から全身に広がっていく。一ノ葉の感覚は手に取るように分かった。
 初馬は一ノ葉の頭を自分の方に向けさせ、強引に唇を重ねた。
「むっ……!」
 茶色の瞳が大きく見開かれる。強張る身体と跳ねるように伸びる尻尾。
 つんと立った乳首をやや強めに摘みながら、舌を一ノ葉の咥内へと差し入れた。もう何度目なのか忘れた、絡みつくようなディープキス。身体が反応しているのが分かる。
 快楽に呑まれようとしている意識を、理性と意地が強引につなぎ止めていた。それでも抵抗が続く時間は少ない。しかし、完全に堕とすことはしない。
 唇を放し、初馬は口端を持ち上げた。一ノ葉の顔も正面を向く。
「さて、これからどうするかな?」
 一ノ葉の右手を動かしたまま、初馬は左手で白衣の上から右胸に触れた。
 自分の手と初馬の手で、柔らかな両の胸の膨らみを揉み始めた。一ノ葉の心拍が上がっている。羞恥心と屈辱感。そして、通常ならあり得ない状態に対する困惑と興奮。
「貴様……」
 それでも一ノ葉は気丈に呻いてみせた。まだ抵抗の意志は消えていない。しかし、身体の支配権は初馬に奪われ、眼にも力がない。抗う力は残っていないようである。
 左手が行灯袴の切れ目へと手を差し入れた。
「待て――!」
 一ノ葉が呻くが、手の動き止まらない。
 行灯袴はスカートのような構造であるが、下には裾ほどまで長さのある白衣がある。袴を持ち上げても、見えるのは足ではなく白衣だ。行灯袴の切れ目から手を入れても、直接太股などに触れることはできない。
 しかし、その白衣は前で留めているわけではない。一ノ葉の手を操りながら、白衣の衽をめく上げ、その奥へと左手を差し入れた。胸を弄る手の動きは止めていない。
「貴様、はっ――っぁ! ワシは貴様の、おもちゃッ、んんっ、ではない!」
 必死に抵抗の意志を見せるが、身体の支配権は奪い返せない。
 差し入れられた手が太股を撫でる。丸みを帯びた弾力のある肉の感触。手に合わせて、緋色の生地が動いていた。太股を撫でる手の感覚、自分の手で撫でられる太股の感覚。そして、一ノ葉の味わっている快感。
 初馬は術式を解してそれらを味わっていた。第三者的で無味乾燥なものだが。
「さっきも言っただろ? 今日はお前をおもちゃにするって。俺はかなり怒ってるからな。具体的に言うと、楽しみに食べようと冷蔵庫にしまっておいたレアチーズケーキを妹に盗み食いされた時くらい」
 楽しげに告げながら、初馬は焦らすように一ノ葉の手を動かしていた。太股を撫でる手が、徐々に上がっていく。
「やめ、ろ……」
 必死にその手を止めようとしている一ノ葉だが、無駄な抵抗だった。
 両足がやや大きく左右に開かれ、指先がショーツに触れる。
「ッ!」
 喉から漏れる引きつった声。下腹から背筋を通り、脳天まで痺れが突き抜ける。しかし、手は止まらない。元々一ノ葉の意志で動かしているわけではないのだ。
 塗れたショーツの上から、中指を動かし秘部を上下に擦った。なめらかな生地と柔らかく、弾力のある肉。その動きはまるで自慰である。
「どうだ? 自分で自分を弄るって気持ちいいだろ?」
「くぅ……。そんな、わけ――あ、ふあぁ……あるか……ァっ! このド阿呆がっ、くああっ、いい加減に、ッ、いぃ、はっ、やめ、ろ……。ふぁ、やめ、て――」
 だらしなく口を開けて、切なげな悲鳴を上げる一ノ葉。頬が赤く染まり、口元から涎が垂れている。狐耳と尻尾が不規則に動いていた。
 一ノ葉がどれほど感じているのか、初馬は手に取るように分かる。
 その反応に満足しつつ、初馬はショーツの縁から中指を差し入れ、
「行くぞ?」
「ぃ?」
 その一言に疑問符を浮かべる一ノ葉。
 その口が問いを発するよりも早く、膣へと中指が差し入れられた。今までの前技のおかげて溶けた膣内。濡れた肉をかき分け、指が体内へと差し入れられる。身体の中に異物が入ってくる感触に、寒気のような衝撃が下腹からに全身に響き渡る。
「……!」
 無言のまま、一ノ葉が身体を仰け反らせ、手足を強張らせる。鈍い電撃がゆっくりと身体に広がっていく。そうして中指の根本まで膣に差し込まれた。
 何度か痙攣してから、一ノ葉が睨み付けてくる。両目から涙を流しながら、
「あっ、はッ……! 貴様、何を……ぃっ、ヒぁッ!」
 しかし、初馬はかまわず一ノ葉の指を動かす。ゆっくりと上下に、丁寧に膣を刺激するような動き。時折、親指で淫核を優しく叩いている。
 両胸を攻める一ノ葉の右手の動きと初馬の左手の動き。それに加えて、膣内を優しく上下する右手の動き。それらが、意識を溶かしていく。
「はっ、あああっ……。くっ、貴様はぁ――んんんっ……!」
 必死に抵抗する一ノ葉。初馬はその感覚を知ることができるため、どこが感じるのか、どれほど感じているのか、手に取るように分かった。
「まだまだ行くぞ」
 初馬は胸を攻めつつ、中指で膣を刺激しながら、おもむろに狐耳に噛み付いた。柔らかく同時に適度に弾力のある歯応え。一ノ葉の狐耳から首筋を通り、背骨から手足の先まで細い痺れが伝わっていくのが分かる。
「ああッ、また、ミミ……!」
「お前これ好きだろ?」
 狐耳を甘噛みしながら、初馬は笑った。狐耳を咥える歯応えは癖になる。
「好きッ、なっ、わけ、ない……んんっ、だろ! ぅあぁ」
 横隔膜を引きつらせながら、必死に言い返してくる。両目から流れる涙と、口元から垂れる涎。身体を駆けめぐる甘い波紋から、必死に逃げようとしているが、やはり自分の意志で身体を動かすことはできない。
「先に言っておくけど、ちゃんとお願いするまで、最後までイかせる気はないぞ?」
 初馬はそう囁きかけた。
 今までに二度同じ事をしている。それが何を意味するかは一ノ葉も理解しているだろう。お願いします、ご主人様――そう言うまで焦らし続けるということだ、と。
「はっ、ぁッ、貴様は……! ッぅ、やは、りッ、はっ、そう来たか……!」
 一ノ葉が殺気の込められた視線を飛ばしてくる。初馬に支配権を奪われ、顔を後ろに向けることはできないので、その気配は伝わってきた。
 初馬は狐耳から口を放し、胸からも手を放す。
「もっとも、今日試してみたいのはこれじゃないんだよ」
 一ノ葉の身体を動かし、襟元から右手を引き抜き、膣から中指を抜いて、袴から左手を抜いた。とりあえず攻めが中断されたことに、安堵の息を漏らす一ノ葉。しかし、それで終わりでないことは身に染みて理解している。
「貴様は、何を企んでいる、のだ――」
「口で言うよりも体験する方が早い」
 初馬はそう告げて一ノ葉を動かした。足を動かして身体を持ち上げてから、前後を入れ替える。正面を向いた状態からお互いに向き合うように。
 再び一ノ葉が太股に座った。殺意の込められた視線が飛んでくるが、それは受け流す。
 初馬は両手で七つの印を組んでから、一ノ葉の首筋に右手を触れさせた。最初に契約術式の継続点として血印を書き込んだ場所である。
「式操りの術・意送り」
「ッ!」
 一ノ葉が一度小さく痙攣した。
 術は成功である。
「何を、した……?」
 威嚇の眼差しのまま、不安げに訊いてくる一ノ葉。まだ自分に何が起ったのか理解できていないようだった。すぐに理解できるような変化ではない。だが、もうすぐ否応に理解することになるだろう。
 一ノ葉の両手が初馬の股間に伸び、ズボンのチャックを下ろす。
 既に準備万端となったものが姿を現した。
「相変わらず不気味な生殖器だ……」
 戦くように一ノ葉が呻く。今までに何度か見ているが、慣れないのだろう。普通に生活していて見慣れるということもない。
「今お前に使ったのは、こういう術だ」
 言うなり、一ノ葉の両手が初馬のものを優しく掴んだ。
「!」
 一ノ葉の両目が見開かれる。狐耳がぴんと立ち、尻尾が爆ぜるように膨らんだ。初馬のものを掴んだからではない。自分の感覚に驚いたのだ。
 両手が上下に動き出す。他人に触られているとはいえ、動かしているのは初馬自身なのでそれなりの気持ちよさを作り出すことができる。
 しかし、一ノ葉はそれどころではなかった。
「あ、あっ、なに、何だ……? 貴様、んんッ、ワシに何をした……!」
 何が起ったのか分からないとばかりに、辺りに視線を飛ばしている。自分に何が起っているのか、まだ理解していないようだった。すぐは理解できないだろう。
 一ノ葉の手が初馬のものから離れる。
「……ぅぁ?」
 訳が分からないといった表情に一ノ葉に、初馬は簡単に説明する。
「式操りの応用。俺の感覚をお前に送っている。つまり、お前が今感じてたのは、男の感覚だよ。いつだったか女の快感ってのを楽しませてもらったから、今日はお返しに男の快感ってのを教えてやる」
「貴様は、何を考えているんだァ!」
 絶叫する一ノ葉。
 初馬は右手で、そっと自分のものを掴んだ。その感覚が一ノ葉に伝わったのだろう。ぴたりと硬直する。そのままゆっくりと上下に手を動かし始めた。
「な、なな、ぁ……何だ……。あっ、何か、ヘンだ、ぅあああッ……」
 両手で股間を押さえる一ノ葉。式操りの術の効果が薄れて、ある程度自分で身体を動かすことができるようになっていた。それを認識する余裕はないだろう。
 しかし、自分で股間を押さえても意味はない。自分の感覚ではなく、初馬の感覚が流れ込んできているのだ。一ノ葉の意志ではどうにもならない。
 女である一ノ葉にとっては、男の快感というものは未知のものだ。
「さて――」
 初馬は手を放してから、一ノ葉の両肩を掴む。びくりと、大袈裟なまでに身体が震える。これから何が起るのか悟ったのだろう。
 しかし、自分の予想を否定するように問いかけてきた。
「貴様、何を……するつもり、だ?」
「訊く間でも無いだろ?」
 初馬は笑顔で答える。
 そして、一ノ葉の身体を動かした。

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