Index Top 第4話 一ノ葉になって

エピローグ


「さて、どうしよう。これ」
 初馬は卓袱台の前に座ったまま、コップを見つめていた。
 コップを満たしている、茶色い液体。感覚共有の強制解除薬。匂いは、風邪薬の葛根湯に似ていた。極端にまずいということはないだろう。
「捨てろ」
 一ノ葉が言い切った。
 既に狐の姿に戻り、正面に座っている。
 あれから一時間ほどしてから目を覚ました所で、式神変化を解き、狐の姿に戻って貰った。胡乱げな眼差しで薬を見つめている。
「こういう術系の薬は不用意に捨てると危ないからな」
 初馬は右手を伸ばして、コップを掴んだ。
 一ノ葉が絶頂を迎えたショックで感覚共有は解除された。だが、ショックによる強制解除だったので、まだ中途半端な共有が残っている。一ノ葉に自覚はないようだが、初馬にはうっすらと一ノ葉の感覚が流れ込んできて気持ち悪い。
 初馬はコップの縁に口を付け、中身を口に注ぎ込んだ。見掛け同様葛根湯のような甘苦い味。喉を動かし、薬を胃へと流し込んでいく。
「ふはぁ」
 コップを置き、初馬は薬臭い息を吐き出した。薬の効果か、微かな感覚共有が無くなる。頭の中がすっきりしていた。
「むぅ」
 一ノ葉が匂いから逃げるように顔を背ける。吐き気がするほどの匂いではないが、お世辞にも香しいものではない。獣の嗅覚には堪えるのだろう。
 だが、首を振ってから初馬に向き直る一ノ葉。胡乱げな表情で、狐耳を立てる。
「そうだ。ひとつ言っておく」
「何だ?」
「今回みたいなことは二度とやるな」
 睨むような眼差しとともに告げてくる。さすがに、今回のように好き勝手身体を弄り回されるのは嫌だろう。一ノ葉の意見はもっともだった。
 しかし、初馬は横を向いて呟く。
「面白かったのに……」
「二度とやるな!」
 一ノ葉は叫んだ。

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