Index Top 第1話 狐の式神

式神馴らし 第1話 おまけ


「うぐ。ワシ、このまま死ぬかも……」
 一ノ葉が擦れ声で呻く。
 初馬の下宿先。二階建てアパートの一室。
 大きなバスケットにタオルケットを敷いた寝床。狐に戻った一ノ葉が、苦しげに丸まっていた。虚ろな目付きを、どこへとなく向けている。
「二日酔いじゃ死なない。飲み過ぎなんだよ、まったく」
 初馬はお盆に乗せた水皿と二日酔いの薬を、傍らに置いた。
 ぴしっと亀裂のような音が聞こえた。それは気のせいだろう。一ノ葉は寝床から跳ね起き、瞳に怒りの炎を灯しながら、声を張り上げる。
「飲み過ぎも何にも、貴様が飲ませたのだろうが! 酒入りの水槽に突き落としたのは、貴様自身だろう! よもや忘れたとは言わせぇ……痛ツっっ……」
 しかし、頭痛に阻まれ崩れ落ちる。
 初馬はそっと一ノ葉を抱え上げて、口に二日酔いの薬を押し込んだ。人間用ではなく妖怪用の二日酔い薬なので、多分効くだろう。それから水皿の手前に下ろす。
 一ノ葉は水皿に口を付けて、舌で舐めるように水を口に含んだ。顔を天井に向けてから、ごくりと薬を呑み込む。
 初馬は一ノ葉を持ち上げ、寝床に戻す。
「これでひとまず大丈夫だろ」
 呟きながら、右手で印を結び、弱い冷気を手の平に込めた。ひんやりと冷えた手で、一ノ葉の額に触れる。冷たさに表情が緩んだのを確認してから、優しく背中を撫でる。
「今日明日は付きっきりで看病してやるから、早く良くなれよ」
「当然だ……」
 眼を閉じながら、一ノ葉が応えた。

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