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エピローグ


「よう。颯太くん……だったか。元気なさそうだな」
 黒い服を着込んだ男が、気楽に声をかけてくる。
 屋敷の玄関。四十ほどの男が出迎えに来ていた。がっしりした体格で、左頬に古傷が一本走っている。背広のような服であるが、背広とは雰囲気が違う。
 靴を履きながら、颯太は尋ねた。
「……樫切さんでしょうか?」
「ああ。俺は樫切宗一郎。準二級退魔師だ。約束した通り迎えに来た。色々と手間は掛かったけど、無事に帰れるぞ。おめでとう」
 宗一郎はあっけらかんと言ってくる。マヨイガに捕まるということは、それどほ危険なことではないらしい。別の意味で危険ではあった。
 颯太は振り返って、梢枝を見やる。
 にこにこ顔で手を振る梢枝。それから、宗一郎に目を戻し、
「あと一日くらい早く来てくれてもよかったのではないでしょうか?」
「何かあったのか?」
「いえ」
 颯太は首を振った。
 言えない。言えたものではない。宗一郎が来るまでの二日間、赤玉が出るかと思うほどに精力を搾り取られたとは。
「また来て下さいねー、颯太さん。次は、もっと歓迎しますよ♪」
「絶対に嫌です」
 笑顔の梢枝に、颯太はきっぱりと断った。

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