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第7話 真夜中の秘め事


 小さな箱の中でラセンはもぞもぞと身動ぎした。
 明かりの消えた部屋。寝床の中でタオルにくるまり、背を丸めていた。背中にネジがあるため、仰向けに寝ることができない。
「ん……。なんだ……?」
 身体の奥が熱を持っている。
 昨日はこんな事は無かった。普通に眠ることができた。しかし、今日はなぜか身体が疼いている。そのせいで寝付けない。
「あいつが無遠慮に触りまくったからか……」
 ラセンが来ているレオタードの事が気になったのか、オーキはべたべたとラセンに触っていた。ラセン自体にはほとんど興味が無かった事が、逆に屈辱的である。
「………」
 ラセンは右手を下ろした。
 赤いスカートをたくし上げ、そこに手を差し込む。
 丸い太股を何度か撫でてから、足の付け根へと移動させていく。心臓――というものがあるかは不明だが、胸の奥から聞こえる鼓動を噛み締めながら。
 何故こんな事をしているのだろうか?
 一瞬そんな考えが浮かんだが、ラセンは無視した。
 指先が足の付け根に触れる。
「ん……」
 微かな刺激に身をすくめ、ラセンは狐耳を立てた。
 聞こえてくるオーキの寝息。まだ部屋の片付けや大学の準備などが忙しいらしい。起きている時は元気だが、ベッドに入ったらすぐに寝てしまう。ここで起きてくることはない。ラセンはそう結論づけた。
「ふ……っ……」
 音を立てず、ラセンは指を動かす。
 指先に触れるレオタードの滑らかな生地。ぴりぴりと痺れるような感覚が、身体の奥へと流れていく。尻尾が痙攣するように細かく跳ねていた。
「っ」
 布団代わりのタオルを噛み、緩慢に指を動かしていく。ラセンは微かな快感に身を震わせていた。背中を丸め、足をぢぢこませ、息を止める。
 意識が遠く薄くなっていく。
 その一方で五感が異様に鋭くなっていた。
 甘い痺れが、ある一線を越え。
 ………!
 小さな衝撃が爆ぜる。
「ふっ!」
 両足が引きつり、呼吸が止まった。胸の奥に弾ける灼熱。意志とは無関係にあちこちが不規則に動く。小さな痺れが波紋のように手足の先まで広がっていった。
 軽く達したらしい。
 苦笑いとともに、ラセンはその事実を呑み込んだ。
「んん……」
 くぐもった呻き声に動きを止める。
 ベッドの軋む音と布団の跳ねる音。大きなものの動く気配。足がベッドに落ちる音が聞こえた。オーキが寝返りを打ったらしい。
「……ッ!」
 ラセンは慌ててスカートと上着を戻し、目を閉じた。
 十秒、二十秒、三十秒と待ち、変化が無い事を確認する。ただ寝返りを打っただけだ。ラセンに気付いたわけではないだろう。
「おどかすな、アホ……」
 声に出さずに文句を言ってから、ラセンは一度深呼吸をした。半分溶けたような思考。身体はいまだに快感を求めて疼いている。この程度では満足してくれないらしい。
 ラセンは上着のボタンを外した。
 右手で胸の膨らみを包み込む。
「ん……」
 大きくはない。しかし、平らでもない。レオタードの生地を押し上げる、女性特有の胸の膨らみ。手の平全体で包むように、優しく愛撫する。
 胸の奥に熱い渇きが溜まっていく。
「ぁぁ……」
 身体が溶けていくような錯覚。
 ラセンは右手をスカートの奥へと差し込んだ。
 両足の付け根、秘部へと再び指を触れさせる。
「んっ」
 身体が跳ねた。
 だが、そこで止めることなく、ラセンはさらに両手を動かしていく。右手で控えめな乳房をこねるように、左手で小さな縦筋をなぞるように。
 身体が熱い。
 意識が遠くなるような陶酔感。
 音もなく高まっていく性感。
 そして。
「ん、んっ……!」
 ラセンは声を呑み込んだ。
 身体の芯を走る衝撃。呼吸が止まり、きつく閉じた目の奥に光が瞬く。衝撃を押さえ込むように全身を硬直させた。再び達したのだと、ラセンは理解する。
 浅い呼吸を繰り返し、その余韻をしばらく味わってから。
 ラセンは手早くスカートを直し、上着のボタンを止めた。
 身体の奥にあった疼きは消えていた。
「………まったく」
 毛布代わりのタオルをかけ直しながら、オーキを見る。
 ラセンには気付かず眠っているようだ。何も知らずに眠っていてくれることは、正直ありがたい。このような秘め事は誰にも知られずにやるものだ。
「しかし、アタシの身体はどういう仕組みなのやら」
 ラセンは自分の手を見つめた。
 漆黒の部屋。微かに手の形が暗闇に浮かび上がっている。
 魔術師フリアルによって作られた魔術人形の身体。ラセンが考えてるよりも、遙かに複雑で多彩な機能が組み込まれているようだった。

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12/9/27