Index Top 第9話 橙の取材

第9章 助けて……


 ニニルが部屋に入って三時間ほど経っただろうか。
 千景は部屋のドアを開けた。
「おい、大丈夫か?」
 部屋は暗く電気は付いていない。カーテンの隙間から差し込む月明かりが、床を白く照らしている。鼻をくすぐる微かな甘い匂い。自分で処理すると言われた以上関わるのはよくないと思ったが、完全放置もよくないだろう。
「中里千景……」
 ニニルが使っている布団。
 頭から毛布をかぶったニニルが、千景を見上げていた。橙色の瞳に涙を浮かべながら。
「助けて、下さい……」
「もしかして怖くて自分じゃできないのか?」
 確認するように訊く。
 ふらふらと起き上がりながら、ニニルは声を荒げた。顕現していた羽は消えている。
「し、仕方ないじゃない、ですか……!」
 声は擦れていて、呂律も完全ではない。手足は震えていて、顔は真っ赤に紅潮している。喋るだけで身体に響くのだろう。それでも空元気を出すだけの根性は残っているようだった。奥歯を噛み締め、千景を睨み付ける。
「自分の身体なのに、自分のものじゃないみたいで……! それより――は、早くなんとかして下さい……。このままでは気が、触れてしまいそうですよ!」
「後で文句言うなよ」
 千景はドアを閉めてから、ニニルの前に屈み込んだ。
「ええ……」
 悔しげに唇を噛む。自分で何とかすると見得を切ったのに、結局千景に頼ることになってしまった。人間と身体を重ねる事よりも、おそらくそちらが気に入らないのだろう。
 ニニルを抱き上げたままベッドまで歩き、腰を下ろす。
 ニニルを膝に乗せ、千景は小さな身体へと手を回した。白と黒のコートのような服の上から、胸に手を触れさせる。大きさは標準的だろうか。
「ん……ッ」
 身体を強張らせ、ニニルが息を止めた。
 千景は胸を撫でながら、右手を足の間に差し入れた。太股を撫でてから、その奥へと。指先に触れる濡れたショーツの生地。そこを指先で軽く押す。
「ぅぅ……」
 目を閉じ小さく呻くニニル。
「無理矢理我慢しない方がいいぞ」
「我慢している、わけで……は――」
 目を開き、言い返してくる。発情した身体は刺激を求めているのだが、意識が付いていっていない。本能的な恐怖で、反応を強引に押さえ込んでいるようだった。
「んんん――うぅ……」
 左手で胸を撫でながら、右手で秘部をこする。
 手足が小さく引きつり、ニニルは身をよじっていた。衝撃に耐えるように歯を食いしばり、両手を握りしめている。本人の意志とは無関係に身体が動いているのだろう。
 千景は両手の動きを止めた。
「ん」
 ニニルの身体から力が抜ける。
 それを見計らい、千景は耳に軽く噛み付いた。長く尖った耳。それを甘噛みしながら、縁に舌先を這わせる。と、同時に手の動きを再開させた。
「ああっ! ひっ、あああぁぁぁぁぁぁぁ! ああっ――いいいい……イィィ、いっ!」
 気の抜けたところへの不意打ちに、ニニルが一気に絶頂へと達した。正気を失った咆哮のような声を上げながら、全身を激しく痙攣させる。小さな身体を千景は両手で抱え、舌を噛まないように指を口に差し込んだ。
 手足をぴんと伸ばし、声にならない悲鳴を上げてから。
 糸が切れたようにニニルが身体の力を抜いた。意識を失っている。
「起きろ。大丈夫か」
 ぺちぺちと頬を叩くと、意識を取り戻した。
「私は……うぅ……」
 両手で身体を抱きしめ、背中を丸める。口元から涎を垂らしながら、ニニルが振り向いてきた。橙色の瞳で千景を睨み付けながら、
「まだ、足りません……わ……。はっ、はぁ……。司祭長たちを、っ――手込めにした……はっ、あなたの実力は、その程度のものなの――ですか?」
「よく分からない挑発をするな……」
 苦笑しながら、千景はニニルを抱え上げた。身体の前後を逆にして膝に乗せる。
 続けて、白黒のコートのボタンを外し、それを脱がせた。下に着ている服は、橙色の上着とスカートである。そちらも順番にボタンを外し、ホックを外していく。
「な、何をしているのですか……!」
 慌てて千景の手を押さえるニニルだが、千景は止めない。
「見て分かるだろ、服脱がせてる」
 上着とスカートを脱がせると、橙色のブラジャーとショーツが露わになった。目立った特徴ははない。普通の下着だろう。口元を固く結び、眉を寄せている。
 そのまま下着も脱がせてしまう。
 服を全て脱いだニニル。残っているのは首と手首足首に嵌めた木の輪のみ。顔を赤くして身体を隠そうするが、途中でその手を止める。恥ずかしいが、隠したら負けと思ったのかもしれない。
「きれいな身体だな」
「当たり前です!」
 笑う千景に言い返してくる。
 そっとニニルの腕に手を触れた。前腕から二の腕へと、肩を撫で、背中を撫で、首筋を、お腹を。滑らかな肌の手触り。人間よりも肌のきめは細かい。
「あっ……」
 口を押さえ、甘い吐息を吐く。
 千景はニニルの身体を抱き止せ、お尻や足へと順番に手を触れさせていく。快感をああ耐えるように揉むわけではなく、血行を促すようなマッサージだった。
「んん……ぅぅ……」
 荒い呼吸を繰り返しながら、ニニルは視線を泳がせていた。
 千景は丁寧にニニルの身体を手で撫でていく。快感が生まれるほどには強くなく、かといって無視できるほどに弱くもなく。一人で立っていることもできなくなり、ニニルが千景に身体を預ける。
「は、はやく……してください……」
 泣きそうなニニルの声。
 しかし、千景はあくまで丁寧に身体を撫でるだけだった。熱く火照った肌に、じっとりと汗が滲んでいる。それでも大きな刺激は与えず、焦らすように身体を撫でた。
 歯を食いしばり、ニニルが千景を睨み付ける。
「くっ、こういうの、は……ひ、卑怯ですよ……!」
 目元に涙を浮かべ、腕を掴んできた。
 千景は身体を撫でる手を止め、ニニルの腰に手を添えた。そのまま小さな身体を抱え上げる。軽くて小さな体躯であるため、好きな姿勢を取らせることができるのだ。
 ベッドから一度立ち上がり、ニニルを仰向けにベッドに下ろす。
「え? な、何を?」
 かぷ。
 と、千景はニニルの秘部へと口を添えた。
「ひっ」
 小さな悲鳴。橙色の髪の毛が逆立つ。
 舌先に感じる強烈な甘み。千景はニニルの秘部を嬲るように舐め始めた。小さな縦筋の周りを舐めてから、淫核から膣口まで舌を這わせる。
「ひいいっ! はっ、ひぃぃいっ! あああっ! いいっ、い――いっ!」
 身をよじりニニルは悲鳴を上げた。
 千景はさらに両手でニニルの胸を掴む。大きさは普通だろうか。小さな膨らみを両手で撫で、先端を指の腹でこすった。秘部を攻める舌の動きも止まらない。
「ああっ、はっ……くあっ――!」
 手足を振り回し、ニニルが悶える。
 発情した状況で待たされ、さらに焦らされたところへの強烈な攻めに、立て続けに達していた。でたらめに手を動かし背筋を反らし、声にならない声を上げている。
 数分は経っただろうか。
 そうして反応も薄くなった頃に千景は口を放した。
「もう大丈夫だろ?」
 ベッドの上でぐったりとしているニニルに声をかける。
 だが、ニニルは不意に腕を持ち上げ、千景の手を掴んだ。痛みを感じるほどの力で。糸が切れた人形のような姿からは想像も付かない。涙と涎を溢れさせながら、口を開く。
「まだです……中里千景……! まだ足りません……!」
「おい……」
 思わず言い返す。
 ニニルは身体を起こし、両手で千景の指を掴む。掴んだ指の先端を、自分の秘部へと押しつけた。指先に触れる熱い液体。何をしようとしているのかは、考えるまでもない。
「こ、こうなったら、あなたの指を私の中に入れて下さい……」
 想像通りの事を言ってくる。
「背に腹は、代えられませんからね……」
「分かった」
 一拍の躊躇から頷く。
 左手でニニルの身体を抱えると、抱きつくように腕を回してきた。さすがに不安はあるのだろう。指先を膣口に触れさせるが、静止の言葉は出てこない。
 つぷ。
「!」
 千景の指がニニルの中へと差し込まれる。濡れた肉をかき分け奥へと。
「ふぁ……ぁ……ァァ……」
 甘い声を上げながらニニルが抱きついてきた。身体の大きさからすると、人間の指くらいが丁度いいのかもしれない。指の動きに合わせて、ニニルが身体を跳ねさせる。
 そして、先端が奥に触れた。
「ンッ!」
 息を止めるニニル。それで大きく達したらしい。
 身体の震えが収まるのを待ってから、ゆっくりと千景は指を動かし始めた。
「おおおおっ! ふぁ、ああああっ! ああああああっ!」
 千景に抱きつきながら、ニニルは腰を浮かせ咆哮のような声を上げている。
 今までとは違う反応だった。声からは正気の色が抜け落ちている。思考もまともに動いていないのだろう。限界を超えた快感に、ニニルは溺れていた。
 指を曲げ膣内を撫で、指先で奥を押す。
「ひっ……! はっ――ッ……! あっ……!」
 声を擦れさせ、ニニルは全身を痙攣させた。涙を流し、涎を垂らしながら。口元はだらしなく開き、舌も垂れている。眼の焦点もあっていない。酷い顔だった。
 指の動きに合わせて嫌らしい水音が響く。
 失禁したように流れる液体がベッドを濡らしていた。
 そして。
 ぎゅっとニニルの膣が千景の指を締め付ける。
「は……くッッっ!」
 一度大きく痙攣し、糸が切れたように脱力した。
 千景はゆっくりと指を挽く抜く。
 完全に抜けた瞬間、ニニルの身体が小さく跳ねた。意識は失っても身体の反射が消えるわけでもない。それでも、峠は越えたという感触はあった。
 色々な液体を垂れ流しているニニル。
「あー……」
 濡れたベッドと自分の服とを順番に眺めてから、千景は力無く呻いた。

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