Index Top 第1話 唐突な居候たち

第7章 一日の終わりに


 どれほどの時間が経っただろう。
 千景は胸に抱きかかえていたピアを、丁寧にベッドに下ろした。ピアの作った結界内で自分たち以外のものは見えないが、何がどこにあるかは普通に分かる。
「そう難しく考える事はないから、ピア。お前たちがここにいることに負い目を感じる必要は無い。思った事は正直に言え。俺も正直に答えるから」
 千景は諭すように優しく、だがしっかりと告げた。
 閉じた長衣の襟元を押さえ、ピアは頷く。
 それから、顔を上げた。
「それでは……早速ですが、ご主人様……あの――」
「ん?」
 千景は疑問符とともに、ピアを見下ろす。
 人形のような小さな身体。その身体が小さく震えている。千景を見つめる銀色の瞳も、どこか焦点があっていない。眼鏡も外れかけていた。
「なんだか……、身体が、熱いんです……。凄く。何て言っていいのか……あの、分かりませんけど、ご主人様とキスしたら……急に――。あれ……?」
「大体分かった」
 ピアの前に右手を差し出し、言葉を遮る。
 ピアの身体は出来上がっていた。さきほどのキス、おそらく千景の唾液を飲んだから。唾液、発情。その辺りが、千景が世話役に選ばれた理由のヒントだろう。
 それは後に考えるとして、千景は左手でピアの肩に触れた。
「あっ」
 それだけで身体を震わせる。
 千景は小さな身体を持ち上げ、静かに尋ねた。
「不躾な質問だが、ピアは男と交わったことは――無いよな」
「フィフニル族には……男性個体が存在しません……。でも大丈夫です」
 呼吸を乱しながら、ピアがそう答える。
 千景は何も言わず、ピアの髪を右手で梳いた。人間よりも細い銀色の髪の毛。外に向かって跳ねているため、微かに指に抵抗が返ってくる。
「痛くはしないから安心してくれ」
 宥めるように何度か髪を撫でてから、千景はピアのボタンを外した。続けて、上着をはだけさせる。さきほどとは違う、火照った肌があらわになる。白く滑らかな皮膚に、しっとりと汗をかき、無防備に脱力していた。
 小さな身体を右手で持ち上げたまま、左手で肩を支える。
「ご主人様……ふあぁッ!」
 千景はピアの肩口に浅く噛み付いた。柔らかな肌に優しく歯を立てながら、舌を這わせる。ピアの身体を食べるように――そんな気分で、肩から胸に掛けてを甘噛みする。
「あっ、ん……ぁぁ……」
 ピアは手足を振るわせながら、千景の口を甘受していた。
 今までこのような経験は無かっただろう。あるとも思わなかっただろう。その想像すらしなかったものをピアは今、現実として体験している。
 服をはだけられ、素肌を艶めかしく舐められる。そんな淫猥な体験。
「ご主人……さま……」
 両手で千景の頭を掴んだ。
 千景は頭を放す。肩辺りから胸元にかけて、唾液が微かな光沢を残していた。羞恥心に顔を真っ赤にしているピアに、千景は声をかけた。
「ブラジャー外してみてくれないか?」
「うぅ……。かしこまりました」
 頬を赤く染めたまま、ピアは背中に手を回した。さすがに躊躇はあるらしい。しかし、抵抗はしない。後ろの結び目を解いてから、ブラジャーを身体から引き抜く。
「ちょっとすまんな」
 千景は左手を素早く動かし、ピアの両手首を掴んで頭上に持ち上げた。背中を支える右手はそのままで。これで、両腕を動かすことはできず、身体を隠すこともできない。
 両手を真上に挙げたまま、無防備に上半身を晒すピア。形のよい控えめな乳房、つんと立った淡い色の乳首。形や大きさなど理想的だろう。
「ご主人様……。すごく恥ずかしいのですけど……」
「自分で"ご自由にしていただいて構いません"って言ったんだ。腹は決めるように」
「うぅ」
 千景の反論に、ピアは目を閉じて真っ赤に染まった顔を背ける。自分の宣言を破る気はないらしい。だが、自分で口にした言葉を後悔しているようだった。
「本当に、きれいな身体だよ。ピアは」
「………」
 返事はない。耳まで赤く染めたまま、横を向いている。
 軽く口を開け、千景はピアの左胸に舌を触れさせた。
「ひゃ!」
 ピアの身体が跳ねる。が、構わず千景は舌を動かした。丸く弾力のある乳房を舌で押したりしながら、さらに先端を舌先で優しくころがす。
「あっ、ふあぁ、ご主人様……! やっ、ぁあっ」
 続けて、右胸に甘く噛み付き、その柔らかさを味わう。
 舌の動きに合わせて、ピアが身を捩っているが、両手を押さえられているため、逃げることもまならない。おそらく今まで感じたこともない快感に身を捩りながら、ただ千景の攻めを受け止めるだけ。
 一度胸から口を放し、視線を下ろす。
 緩やかな曲線を描くお腹の中心に見える縦筋のようなへそ。
「ふぁ……」
 ピアは目を閉じて、乱れた呼吸を整えている。
 千景は舌先でへそを舐めた。
「きゃっ!」
 予想外の刺激に、ピアが小さく悲鳴を上げる。
 それから視線を下ろし、千景がどこを舐めているかを理解した。
 ピアが見たのを確認し、千景はそのお腹にそっと噛み付く。張りのある肌に優しく歯を触れさせながら、へそとその周囲へと丁寧に舌を這わせる。
「ふぁっ、はぅっ、ご主人様……! んんッ。きゃぅ、どこを舐めてるんですかぁ! んんっ、そこは駄目です、駄目ですぅ。ひゃん! くすぐったいですよぉ……!」
 心持ち笑いながら、ピアがぱたぱたと足を動かしている。気持ちよさはあるようだが、それよりもくすぐったいという感覚が強いようだった。
「良い感じなんだけどなぁ」
 千景はピアのお腹から口を離し、左手で掴んでいたピアの両手首を放した。ぱたりと落ちるピアの両腕。握っていたブラジャーは、ベッドに落ちていた。
「ところで、ピア」
 空いた左手で、ピアの肩を支える。
「ご主人様?」
 無意識に両手で胸を隠しているピア。
 千景はピアの背中を支えていた右手を一度引き抜いた。そのまま、ふとももを優しくなでる。滑らかで繊細な肌と、柔らかな弾力。
 その手をショーツの方へと近づけながら、
「フィフニル族って、男女の性交はできるのか? 男いないんだろ」
「んっ、ミゥの話だと可能のようです。ん……っ。わたしたちのそこは、人間と変わらない女性器になっているみたいです。何の目的なのかは、分かりませんけど……」
 千景は人差し指をそっとショーツに触れさせた。
 ふとももを合わせ、身体を強張らせるピア。未知の快感に身体と思考がまだ付いていかないらしい。羞恥に染まった顔で、ぎこちなく微笑んでみせる。
「ご主人様。わたしもご主人様のものを受け入れる覚悟はできています。もし、わたしが泣き言を口にしたとしても、それを考慮する必要はありませんので……」
「その気は無いよ」
 冷静に告げてから、千景はゆっくりと指を動かした。
「ンあっ!」
 ピアが甘い声を上げる。それは、今までの声とは少し違った。鋭く深い声。しかし、痛みなどによる声ではないのは、すぐに分かった。
 女の中心がある辺りを、傷付けないようにゆっくり丁寧に人差し指を動かす。
「あっ、あっ……ご主人さ、ま……」
 少し涙声になりながら、ピアが両手を胸元で握り締めていた。男女の営みも知らない、無垢で純真な少女のように。しかし、銀色の瞳は眼鏡越しに、千景の動きをしっかりと捉えている。
 ショーツがしっとりと湿り気を帯びていた。
 指先から伝わってくる秘部の手触り。他のどことも違う、肉体の形状。まだ実物は見ていないが、ピアの秘部は人間と変わらないのだろう。
 全体を上下に撫でるのをやめ、淫核の辺りに小刻みに振動を与える。
「んっ、んんンッ、あああッ! ご主人様、何です、あっ……!」
「大丈夫だ」
 そう一言声を掛けてから。
 千景はピアの口を自分の口で塞いだ。
「……! ……!」
 ピアは銀色の目を驚きに見開く。しかし、自分の置かれた状況を理解し、すぐに大人しくなった。両手を千景の首に回し、少し無理のある口付けを味わう。
 お互いに丁寧に舌を絡ませあいながら、お互いの唾液を交換し、喉を動かし呑み込んでいく。なんとも淫猥な口付け。
 その間も、千景がピアの秘部を優しく愛撫する。
 ピアのショーツの中に右手を差し入れ、手で下腹部を包み込むように。そして、中指で布に隠されていた秘部へと触れる。指先に触れる、女の最深部。そこに丁寧に指先を這わせる。淫核を撫で、膣口をくすぐり、全体を優しく撫でる。
 ふとピアが口を放した。焦点の合わない銀色の瞳、眼鏡が外れかけているのに、それにも気付かない。緩んだ頬と、口元に映る静かな笑み。
「ご、しゅじん、さま……あぁ……」
 再び静かな口付け。
 唇を触れあわせるだけの優しく静かな口付け。緊張していたピアの身体から、力が抜けていく。大きな動きはないが、達したのだろう。
 千景は右手をショーツから引き抜き、ピアの口から自分の唇を離した。
「ありがとう……ございます……」
 ピアがそう微笑み、小さく頷く
 何も言わずに、千景は両手でピアを包み、胸に抱きしめた。ピアも抵抗することもなく、千景の抱擁を受け入れる。両手をそっと胸板にあて、頬を預けた。身体も意識も、完全に警戒を解いた無防備状態。
 千景は何も言わず、ピアの頭を撫でていた。

Back Top Next

10/12/18