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序章 世界を記録する者


 飛行機の窓から見える白い大地。
 石英質の鉱物による白い砂漠だった。ファンタジアと名付けられた惑星。この星のほとんどを占める砂地である。人類がこの星に移住してから、およそ三百年の月日が経つ。色々と開拓を進めてはいるが、それでも人間が住める場所は非常に少ない。
 飛行機は目的地目指して静かに空を駆けている。
「もうそろそろですね」
 腕時計を眺め、アイディは椅子から立ち上がった。特別に用意された個室である。部屋にいるのは自分一人だった。
 三歩足を進め、鏡の前に立つ。
「うん。準備よし」
 鏡に映った自分の姿を眺め、アイディは頷いた。
 少女と言っても過言ではない小柄な女だった。身長は約百四十五センチ。毛先を切り揃えたボブカットの濃い茶色の髪の毛。度の強い大きな丸眼鏡を掛けている。服装は落ち着いた赤色のスーツに同色のハーフパンツだった。足には白いハイソックスにブーツを穿いている。服装は特に決められたものではなく、自分で用意したものだ。
 左胸には羽ペンと本を象った紋章を付けている。
 胸元のネクタイの位置を直しながら、
「初めてのお仕事ですからね、やっぱり緊張します。でも、これからわたしも一人前の書記士ですから、気の弱い事も言ってられません」
 両手を握りしめ、アイディは頷いた。
 書記士。この星で起こっている事の記録を専門とする者を、そう呼ぶ。特定の場所や人物に関する記憶を正確に公正に記録するのだ。そのために様々な訓練を積む必要があり、その資格を持てる者は少ない。
 アイディはいくつもの試験をくぐり抜け、その資格を得ていた。
 息を吐き出し、時計を見る。
 午前九時四十分。
「あ。でも、一応荷物の確認はしておきましょう」
 机の前に移動し、椅子に置いてあった小さな肩掛け鞄を開く。
 中身は少ない。書記士が用意するものはそれほど多くないのだ。
「身分証明手帳。これは大事です」
 手の平大の手帳だった。拍子は黒い。
 中を開くとアイディ・ライトと名前の記されている。その他いくつかの個人情報と顔写真。そして、書記士の紋章と認証チップ。見た目は簡素なものだが、書記士としての権限を示す非常に重要なものである。
 事実この手帳があれば、ほぼ世界全ての施設への立入り許可が得られるほどだ。
 それだけに紛失は厳禁である。
「無くさないように注意しないといけません」
 手帳を鞄に戻し、次の道具を取り出した。
「次に、ノート。コレがないと記録はできませんからね」
 白い長方形の板。B5版のノートほどの大きさだ。
 開くと中は二画面のタブレットになっている。書記士として様々な情報を記録するための道具であり、ノートのように文字を書き込むこともできるし、パソコンのように片側をキーボードとして使うこともできる。かなり多機能高性能であり、また桁違いな頑丈さも特徴だった。金槌で力任せに叩いても傷ひとつ付かないほどである。
 人によってどう使うかは様々だが、アイディはペンでノートのように使うことが多い。
 いくつか動きを確認してから、アイディはノートを鞄に戻す。
 手帳とノートが書記士の基本的な持ち物である。
「あとは小道具一式、と」
 鞄の中から取りだした小道具を確認してから、笑顔で頷いた。
「忘れ物はありませんね」
 一息つく。
 準備は問題ない。
 静かに飛行機のエンジン音が響いている。
「と……」
 アイディは書類の中から一枚の紙を取り出した。
 褪せた黄色い髪の男の写真と、その個人情報が記されている。ただ、その情報はかなり少なく、機密事項と記されている部分も多い。
 その男がアイディが担当することになった記録対象だった。
「守護機士クラウ・ソラス……」
 記されれている名を、呟く。
 かつて人間がこの星に辿り着いた時に、この星の持つ災害から人間を守るために作られたと言われる戦闘用高性能アンドロイド。人間とは桁違いの力を持つと言われる。その一体だった。守護機士たちは古い神話の武器を名前としているが、その性能や能力とはあまり関係は無いらしい。
 普段はクラウと名乗り、人間のように暮らしているようだった。
 飛行機が高度を下げている。
「そろそろ到着しますね」
 アイディは壁に掛けてあった赤いマントを羽織った。


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惑星ファンタジア
人類が移民した惑星。
大きさは地球とほぼ同じくらい。テラフォーミングによる環境改造の結果、ある程度人間の住める環境になっている。その大地のほとんどをケイ素質の白い砂に覆われている。

書記士
この星で起こっている事を記録する者。特定の人物や場所を設定し、起こる事を記録する。その資格を得るためには、膨大な知識や技術を必要とする。
また、書記士の資格があれば、ほぼ世界中の施設の立入り許可を得られるなど、大きな権限を持っている。
13/4/25