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第18話 小さな村の事件?


 ロアは椅子に腰掛けて、ぼんやりと眼鏡を拭いていた。
 街道から少し離れた所にある小さな村。その村長の家の客室。
「何があるんでしょうね? お化けとか出てきたら嫌です……」
 アルニが窓の外を眺めている。
 最近、村の近くで怪しい気配がするので調査して欲しいという仕事。出兵を要請するほど大事でもなく、かといって役人では分からないこと。そういう場合、傭兵などに調査を頼むことがある。街道の宿場で募集を見かけて、なんとなく応募してみた。
「まだ分からないって。こういう場合の七割くらいは思い過ごしだし、残りはありふれた小さな事件。稀に洒落にならないことがあるけど」
 眼鏡をかけ、お茶を一口。酒を勧められたが断った。下戸ではないが、アルコールは避けている。剣士が酔うのは褒められたものではない。
「もう三時です。村長さんはもう二人、誰か雇ったって言ってましたけど、来ませんね。もしかして忘れてるんでしょうか?」
「オレ一人でも充分何とかなるだろうけど。遅刻は感心しないな」
 トントン。
 見計らったように、ドアが叩かれる。
「はい」
「失礼しまーす」
 部屋に入ってきたのは、若い女だった。
 年はロアと同じくらい。凛々しい顔立ちと短く切った焦茶色の髪。深緑の防護ジャケットとデニムのズボンという森林調査隊のような格好。白鞘に納められた細身の曲剣、その他短剣などを数本所持。茶色の瞳――だが、左目は鮮やかな緑色だった。
 装備から剣士と知れる。
 ロアは椅子から立ち上がり、尋ねた。
「……もしかして、村長から依頼頼まれた人?」
「そうだけど。あなたも?」
 初対面とは思えない気さくな声。ロアは頷く。
「ああ、オレはロア。旅の剣士だ。人のことを言える立場でもないが、若い女の剣士って腕は大丈夫なのか? 強そうに見えないけど」
「女だからって甘く見ないでね。こう見えても強いよ。名前はアスカ。仕事の間の短い付き合いだけど、よろしく」
 力強く微笑み、自己紹介するアスカ。相当な鍛錬を積んでいるのは一目で分かった。質問に実力を探るという意図はない。ただ、強そうに見えないのは事実である。
 思い出したようにぽんと手を打って、アスカは続けた。
「あのさ、ロア。黒い服着た長い黒髪のカンゲツって男見なかった? あたしの相棒なんだけど、ふらっといなくなっちゃって。来てると思ったんだけど」
「知らないし、見てないな」
「うーん」
 ぽりぽりと頭をかきながら、部屋を横切って、ロアの向かい側に座る。ふぅと息を吐き出してから、人差し指を持ち上げる。
「ところで、この子……妖精?」
「え?」
 アルニが驚いたように目を丸くした。今は透明化の魔法で姿を消している。術なしでは姿を見ることが出来ない。アスカは術を使っていない。
「わたしのこと見えるんですか?」
「あたしの左目、特別だから」
 アスカは緑色の左目を指差した。

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