Index Top 硝子の森へ……

第1話 妖精を見つけて


 ロアはポケットから懐中時計を取り出した。
 午後一時十二分。季節は秋晴れ。
「あー。もう昼か……」
 年は十八歳ほどで、体格は中肉中背。背中まで伸ばした砂色の髪と、どこか眠そうな蒼い瞳で、眼鏡を掛けている。服装は草色の上着とズボン、編上げのブーツ。荷物の詰まった鞄を背負い、腰に剣を差していた。
 時計をしまい、左右を見回し、手頃な石を見つける。
 一抱えほどの四角い石。
「ここでいいな」
 石に腰を下ろし、ロアは荷物を下ろした。
 ブルーウォール第十二号一級街道。まんべんなく石畳が敷詰められ、定期的に補修もされている。周囲はまばらな森。二十キロ毎に宿場町もあり、治安も極めてよい。一定距離ごとに魔除け柱が設置してあり、魔物が出ることもまずない。定期的に乗合いバスや乗合い馬車が走っているが、ロアは徒歩である。
「……高いしな」
 熱魔力エンジンを動力とするバス。宿場町をおよそ三十分でつなぐことが可能だ。だが、急用を要する場合と金持ち以外は、徒歩か馬車である。
「ンなことより、昼飯、昼飯」
 ロアは荷物から携帯用調味料その三と弁当の紙箱を取り出し、膝の上に乗せた。
 包みを開ける。
 四角いパンが四斤、塩漬けの野菜、分厚く切った味付けハムが四枚。金平糖が六つ。宿場町で買ってきたものだ。かなりの量があり、値段は手頃な四百クラウン。保存の魔術がかけてあるものは値段が倍になってしまう。
 パンを一斤取り出し、上に野菜とハムを乗せる。塩と胡椒を素地に各種香辛料を独自に調合した特製調味料を一振り。
「いただきます!」
 齧り付こうとした所で視線を感じ、振り返る。
 視線の先に、小さな影。
「ん……」
 木々の間に、妖精が浮かんでいた。
 手の平サイズの身体で、背中からから四枚の半透明な羽が生えている。人間年齢十五、六歳ほどの女の子であるが、実際の年齢は分からない。ショートカットの水色の髪と、青い瞳。紺色の上着と半ズボン、靴。肩から茶色の鞄を提げている。
 どことなくぼろぼろ。口元から涎を垂らし、じっとパンを凝視していた。
 ロアがパンを動かすと、釣られて妖精の視線も移動する。
 妖精を見つめること約十秒。
 ロアは声を掛けてみた。
「食う?」
「勿論です!」
 妖精は元気よく答えた。

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